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最近における道交違反を除いた特別法犯の動きを概観するため,昭和三一年から三六年までの主要特別法犯の検察庁新受人の統計を掲げると,I-23表のとおりである。この表に掲げた特別法犯のうち,麻薬犯罪は最近とくに一般の注目をひいているので,第四編の「麻薬犯罪とその対策」において詳細に検討する。次に選挙犯罪については,本編第二章において特殊犯罪の一として説明し,また主として外国人によって犯される法令違反についても,同章の外国人犯罪の項において説明する。したがって,ここでは以上のものを除いた法令違反について,その概略の説明をすることとする。
I-23表 主要特別法犯検察庁新受人員(昭和27,31〜36年) まずI-23表の最上部に記載した「暴力行為等処罰ニ関スル法律」違反は,犯罪の性質は刑法犯と同じであって,実質的には暴力犯罪の一種であるが,形式的には特別法犯であるからここで考察することとした。この表によって明らかなとおり,同法違反は最近急激に増加し,昭和三六年は三一年の二倍近い数に達している。その増加は刑法犯中の暴力犯罪の増加と原因を同じくするが,これらのうちの比較的増加率の高い暴行,恐かつ等と比較しても,増加率の高い点に特色がある。暴力行為等処罰法の主たる処罰の対象は,集団的暴力行為であって,個々の行為だけをみれば殺人,傷害,恐かつのような犯罪よりは一般に犯情は軽いが,しかし集団的である点において軽視できないものがあり,この種の犯罪の増加に対しては慎重な考慮を必要とする。次に爆発物取締罰則および「決闘罪ニ関スル件」の各違反も刑法犯に準ずる性質を有するが,その数は少なく,増加の傾向は認められない。 次に銃砲刀剣類等所持取締法令違反は,暴力犯罪と密接な関係があるが,昭和二七年と比較して最近大幅に増加している。このうちの大部分は刀,剣,あいくち,飛出しナイフ等の刃物類の取締り違反であって,わが国における暴力犯罪は,この種の刃物を使用または所持して行なわれることが多い点に特色がある。したがって暴力犯罪について考察するには,この違反の動きに十分注意する必要がある。 次に食糧管理法およびその他の経済統制法令の違反は,昭和二七年当時と比較して昭和三一年以降は大幅に減少している。わが国の経済状態は昭和三〇年には敗戦のいたでから回復し,同年以降は「もはや戦後ではない」といわれているが,この点は経済状態と密接な関係のある経済統制関係の犯罪の激減の点にもあらわれている。 次に売春防止法の罰則は,昭和三三年四月一日がら施行されたので,年間を通じての施行は昭和三四年からであるが,同法違反は,昭和三四年と比較して,三五年,三六年と減少している。しかしこの統計面の減少がただちに実際の犯罪の減少を示すとは考えられない。元来売春関係の犯罪の検挙は,きわめで困難であって,その統計に暗数の多いことは,世界共通の現象である。 わが国ではこの法律の施行前までは,売春関係の全国的な取締法令としては,「婦女に売淫させた者等の処罰に関する勅令」があったにすぎず,その他は大都市のある自治体その他一部の自治体においで,街頭における売春勧誘等についての条例によって取締りが行なわれていたにすぎなかった。しかも一部の管理売春は黙認され,売春の周旋も全国各地でなかば公然と行なわれていた。売春防止法の施行により事態は全面的に改善され,これらの行為は社会の表面から姿を消したが,同法の違反がこの統計の示すほど少なくなったと簡単に考えることはできない。経済状態が良好であると売春に対する社会の需要が増加し,売春関係の犯罪は増加する傾向がある。犯罪が増加しても,犯行の手段が巧妙になって検挙されなければ,統計面の数字が増加しないことはいうまでもないところであって,統計の示すように,実際の犯罪が減少しているかどうかの点について,なお十分に検討する必要がある。 いわゆる公安犯罪に属する破壊活動防止法違反は,きわめて少数の事件が受理されているにすぎない。地方公共団体の公安条例違反はこれよりは多少その数は多いが,やはり少数であって,ただ昭和三五年と三六年には他の年より多い。 |