平成１０年版　犯罪白書第3編/第1章

　近年,社会の耳目を引く少年による凶悪事犯が発生したこと等を契機として,少年非行問題については,かつてないほどに高い関心が寄せられるに至り,各方面において様々な角度からこの問題に対する議論がなされている。
　戦後,昭和26年,39年及び58年の三つのピークを経て,59年以降減少傾向にあった少年刑法犯検挙人員は,平成8年からは増加に転じており,中でも,凶悪・粗暴事犯及び覚せい剤事犯が著しく増加しているほか,集団による非行,処分歴のない少年による非行の増加傾向も認められる。また,最近の少年の特性についても,規範意識や対人関係の希薄化,抑制力の不足と短絡的な行動傾向等が指摘されており,少年非行問題は,現下の刑事政策上の最も緊要な課題であるといえよう。
　一方,現行少年審判制度における事実認定手続の在り方が各方面から問われるようになり,制定後約半世紀の間,実質的改正を見ることがなかった少年法についても,本年7月,法務大臣から法制審議会に対し,近年における少年審判の実情にかんがみ,その事実認定手続の一層の適正化を図るため,①裁定合議制度の導入,②検察官及び弁護士たる付添人が関与した審理の導入,③観護措置期間の延長,④検察官に対する事実認定及び法令の適用に関する抗告権の付与,⑤保護処分終了後における救済手続の整備などについて諮問がなされている。
　このような状況を踏まえ,本特集では,最近における我が国の少年非行の動向,特質及び背景を明らかにし,非行少年に対する処遇の実情を紹介し,これらの問題点を探るとともに,諸外国の少年非行の動向及び少年司法制度を概観することとした。
　本編の特集は,この「第1章　序説」のほか,「第2章　少年非行の動向と特質」,「第3章　非行少年の処遇」,「第4章　非行少年の特質」,「第5章　非行少年の生活意識と価値観」,「第6章　少年保護事件の審理及び処分状況」,「第7章　諸外国の少年非行」及び「第8章むすび」の全8章で構成されている。
　この特集に当たっては,各種の公判されている統計資料等のほか,全国の検察庁が新規に受理した少年事件に関する調査資料並びに全国の少年鑑別所に入所した少年に係る統計及び調査資料によって,少年非行及び非行少年の特質についての分折を行っており,これらの結果は,第2章及び第4章において紹介している。さらに,非行少年の生活意識や価値観等を探るため,少年鑑別所及び少年院に収容された少年並びに短期保護観察に付された少年を対象とする独自の特別調査を実施し,この結果については第5章で紹介している。
　なお,我が国における少年非行とは,14歳(刑事責任年齢)以上20歳未満の少年による犯罪行為,14歳未満の少年による触法行為(刑罰法令に触れるが,刑事責任年齢に達しないため刑事責任を問われない行為)及び20歳未満の少年の虞犯(①保護者の正当な監督に服しない性癖のあること,②正当の理由がなく家庭に寄り村かないこと,③犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し又はいかがわしい場所に出入りすること,④自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあることのうちいずれかの事由があって,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあると認められる行状)の3種類の行為又は行状を総称する概念であり,家庭裁判所の審判に付すべき非行少年は,犯罪少年,触法少年及び虞犯少年の3種類の少年とされている。
　したがって,本編においても,この分類に従った非行少年概念の使い分けをしている。