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 平成10年版 犯罪白書 第1編/第2章/第7節/1 

第7節 その他の犯罪

1 財政経済犯罪

(1) 脱税事犯

ア 検察庁における受理状況等

 I-43図は,最近10年間における,所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。所得税法違反は,平成4年の397人をピークに減少傾向にあったが,8年以降は増加に転じ,9年には230人となっている。相続税法違反は,6年までは,受理がないか,あっても10人以下であったが,7年は35人,8年は60人,9年は27人となっている。法人税法違反は,5年に350人と急増したが,それ以外の年次はおおむね100人台後半から200人台で推移している。

I-43図 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反の検察庁新規受理人員の推移(昭和63年〜平成9年)

 I-14表は,最近10年間の各会計年度に,国税庁から検察庁に告発された所得税法・相続税法違反及び法人税法違反事件について,告発件数1件当たりの脱税額の推移を見たものである。平成9年度(会計年度)においては,告発件数は合計165件で,その内訳は,所得税法・相続税法違反が84件,法人税法違反が81件となっている。1件当たりの平均脱税額(加算税額を含む。以下同じ。)は,所得税法・相続税法違反では約1億7700万円(前年比9.9%増),法人税法違反では約2億1,800万円(同6.0%増)となっている。また,脱税額が3億円以上の事件が27件,5億円以上の事件が10件となっている。

I-14表 所得税法・相続税法違反及び法人税法違反事件の告発件数並びに1件あたりの脱税額(昭和63〜平成9各会計年度)

 このほか,消費税法違反による告発が1件あり,平成9年度(会計年度)におげる総告発件数は166件であるが,これらを業種等別に見ると,建設業19件(11.4%)が最も多く,以下,不動産譲渡18件(10.8%),小売業16件(9.6%),卸売業10件(6.0%),製造業8件(4.8%)の順となっている。また,脱税の手段・方法については,売上げ除外や架空経費の計上が主体となっている。脱税によって得た利益の留保形態は,大半が預貯金,割引債券又は不動産となっている(国税庁の資料による。)。

イ 検察庁における処理状況

 I-15表は,最近10年間の検察庁における所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の起訴・不起訴人員の推移を見たものである。

I-15表 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反の起訴・不起訴人員(昭和63年〜平成9年)

 所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の各起訴率は,近年,おおむね90%前後で推移している。なお,所得税法違反の起訴率が,平成5年が26.2%,6年が50.3%と低くなっているが,これは,5年については,多数の市民により告発がなされた国会議員1人に対する所得税法違反事件多数が不起訴処分に付されたことによるものであり,6年については,寄付控除を利用し,国会議員等が多数の納税義務者と共に,不正に所得税の還付を受けたという所得税法違反事件につき,多数の納税義務者が不起訴処分に付されたことによるものである。

ウ 裁判所における処理状況

 司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料によれば,平成9年の通常第一審における終局処理人員は,所得税法違反が56人で,有期懲役51人,罰金4人,公訴棄却1人,相続税法違反が24人で,すべて有期懲役,法人税法違反が185人で,有期懲役86人,罰金98人,公訴棄却1人となっている。
 また,最近10年間の通常第一審における所得税法違反,相続税法違反又は法人税法違反により懲役の言渡しを受けた者の科刑状況を見たものが,I-16表である。平成9年は,刑期が3年を超え5年以下が1人(0,6%),3年が4人(2,5%),2年以上3年未満が21人(13.0%),1年以上2年未満が102人(63.4%),6月以上1年未満が32人(19.9%),6月未満が1人(0.6%)となっており,1年以上2年未満の刑期が最も多い。執行猶予率は90.1%となっている。

I-16表 通常第一審における所得税法・相続税法・法人税法違反の懲役の科刑状況(昭和63年〜平成9年)

(2) 経済事犯

ア 商法違反

 平成9年12月,いわゆる総会屋に対する多額の利益供与事件の摘発が相次いだことを背景として,商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部改正が行われ(同月施行),株主の権利行使に関する利益供与罪・受供与罪の法定刑が引き上げられるとともに,利益供与要求罪や威迫を伴う利益受供与罪等の新設等が行われた。
 I-44図は,最近10年間における商法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。

I-44図 商法違反の検察庁新規受理人員の推移(昭和63年〜平成9年)

 商法違反は,平成8年以降増加して,9年は133人となっている。
 平成9年の商法違反の受理人員を違反態様別に多いものから順に見ると,特別背任61人(45.9%〉,株主の権利行使に関する利益供与37人(27.8%),同受供与32人(24.1%)等となっている。
 平成9年の商法違反の検察庁終局処理人員は134人で,公判請求が68人(50.7%),略式命令請求が6人(4.5%〉,不起訴が60人(44.8%)となっている。
 また,平成9年の通常第一審における商法違反の終局処理人員は17人で,すべて有期懲役となっている。懲役の言渡しを受けた者の刑期を見ると,6月未満が9人(52.9%),6月以上1年未満が4人(23.5%),1年以上2年未満が1人(5.9%),2年以上3年未満が3人(17.6%)となっており,執行猶予率は52.9%となっている。

イ 証券取引法違反及び独占禁止法違反

 証券取引法については,近時,罰則を含む同法の改正が相次いでおり,平成9年12月の同法の一部改正(同月施行)により,相場操縦行為,損失補てん等の不公正取引に係る罰則の法定刑の引上げ等が行われ,さらに,10年6月の同法の一部改正(一部を除き同年12月施行)により,内部者取引に関する規制の適用範囲の拡大や不公正取引により得た財産等の没収・追徴規定の新設等が行われた。なお,同年6月の金融監督庁の設置に伴い証券取引等監視委員会が大蔵省から金融監督庁に移管されることとなった。
 I-45図は,最近10年間における,証券取引法違反及び独占禁止法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。

I-45図 証券取引法違反・独占禁止法違反の検察庁新規受理寺院の推移(昭和63年〜平成9年)

 証券取引法違反の新規受理人員は,平成9年にほ89人と,前年と比べて81人の大幅な増加となっている。なお,4年に設置された証券取引等監視委員会から検察庁に告発された証券取引法違反事件について見ると,10年3月末現在,告発件数は合計17件で,その内訳は,損失補てんが7件,風説の流布が2件,相場操縦が1件,内部者取引が5件,有価証券報告書虚偽記載が2件となっている。
 独占禁止法違反の検察庁新規受理人員は,平成9年には59人となっているが,これは,すべて東京都発注の水道メーターに係る入札談合事件である。
 平成9年の証券取引法違反の検察庁終局処理人員は83人で,公判請求が69人(83.1%),略式命令請求が10人(12.0%),不起訴が4人(4.8%)となっている。また,同年の通常第一審における同法違反の終局処理人員は2人であり,共に6月以上1年未満の懲役で執行猶予が付されている。
 平成9年の独占禁止法違反の検察庁終局処理人員は59人で,すべて公判請求されており,同年の通常第一審における同法違反の終局処理人員は59人で,有期懲役34人,罰金25人となっている。懲役の言渡しを受けた者の刑期は,すべて6月以上1年未満で,いずれも執行猶予が付されている。

ウ その他の経済事犯

 I-46図は,最近10年間における,特許法違反,商標法違反及び著作権法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。

I-46図 特許法違反・商標浅違反・著作権法違反の検察庁新規受理人員の推移(昭和63年〜平成9年)

 商標法違反では,偽有名ブランド商品の販売事件が多数受理されており,著作権法違反では,ビデオソフトやコンピュータソフトの不正複製・販売事件等が多数受理されている。