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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/8 

8 選挙関係法令

(1) 公職選挙法
 戦前においては,明治22年2月に大日本帝国憲法と同日に公布された衆議院議員選挙法(明治22年法律第3号)をはじめとし,その後の改正法において衆議院議員選挙に関する事項が定められたが,特に大正14年の改正後の衆議院議員選挙法(大正14年法律第47号)においては,選挙権に係る納税要件が撤廃されて普通選挙制度が採用された。
 終戦直後の昭和20年12月,衆議院議員選挙法が改正され,女子の参政権が認められるとともに,年齢要件についても,選挙権は満20歳以上,被選挙権は満25歳以上と,いずれも引き下げられた。また,22年2月には,貴族院の廃止と参議院の設立に伴い,参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)が公布(同月施行)された。
 昭和25年4月,各種の公職選挙を規律する初めての総合的統一立法として公職選挙法(昭和25年法律第100号)が公布(同年5月施行)され,衆議院議員,参議院議員,地方公共団体の議会の議員及び長等の選挙について適用されることとなり,同法においては,「買収及び利害誘導罪」,「多数人買収及び多数人利害誘導罪」,「公職の候補者及び当選人に対する買収及び利害誘導罪」,「選挙の自由妨害罪」,「職権濫用による選挙の自由妨害罪」,「投票の秘密侵害罪」,「投票干渉罪」,「多衆の選挙妨害罪」等に加えて,「選挙運動に関する各種制限違反」,「寄附の制限違反」等に対する処罰規定,いわゆる連座制を含む「当選人,総括主宰者,出納責任者の犯罪に因る当選無効」の規定,いわゆる公民権の停止に係る「選挙犯罪に因る処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止」の規定等が設けられたが,これらの規定については,その多くは,既に衆議院議員選挙法においても同旨の定めがなされていた。公職選挙法は,その後,そのときどきの社会の要請等に従って幾多の改正がなされているが,罰則にかかわる主要な改正としては,以下のものを挙げることができる。
 昭和27年8月の一部改正(衆議院議員の選挙に関する施行等を除き同年9月施行)においては,いわゆる選挙目当ての新聞紙又は雑誌が選挙の公正を害し,特殊の候補者と結びつく弊害を除去するためなどから,言論買収を取り締まるための「新聞紙,雑誌の不法利用罪」や「新聞紙,雑誌が選挙の公正を害する罪」のほか,いわゆる百日裁判に関する「刑事事件の処理」の規定が設けられるなどした。
 昭和29年12月の一部改正(衆議院議員の選挙に関する施行等を除き30年3月施行)においては,いわゆる国会自粛立法の一環として,選挙界の浄化を図るため,寄附の制限強化等,各種規定が整備された。なかでも,連座制に関しては,出納責任者の買収事犯等にも新たに適用するとともに,連座制の規定を利用して公職の候補者等の当選を失わせることなどを目的とした「おとり罪」が新設され,候補者,選挙運動の総括主宰者及び出納責任者について,「買収及び利害誘導罪」等に対する刑の加重規定が設けられた。
 昭和37年5月の一部改正(同月施行)においては,36年6月に設置された選挙制度審議会の答申を受けて,選挙法の全般に及ぶ大改正がなされ,選挙違反についての制裁が強化された。連座制については,従来の総括主宰者及び出納責任者のほか,事実上の出納責任者,地域主宰者及び一定の近親者であって候補者らと意思を通じて選挙運動をした者についても連座の対象とするとともに,連座による当選無効訴訟は検察官が提起すべきものとされた。また,事実上の出納責任者及び地域主宰者についても,「買収及び利害誘導罪」,「おとり罪」等に対する刑の加重規定が設けられたほか,罪の短期時効が廃止され,選挙犯罪による公民権の停止が強化された。
 昭和44年6月の一部改正(一部を除き同年9月施行)においては,衆議院議員,参議院議員及び都道府県知事の選挙において,新たにテレビジョンによる公営の政見放送を実施することとしたことに対応して「政見放送又は選挙公報の不法利用罪」が新設されるなどした。
 昭和50年7月の一部改正(一部を除き同年10月施行)においては,衆議院議員の定数の是正とともに,選挙の腐敗を防止し,及びその公正を確保するなどのため,寄附の制限の強化,連座制の強化,罰則の強化等がなされた。すなわち,公職の候補者等が選挙区内にある者に対してする寄附は,政党その他の政治団体又は親族に対してする場合等,一定の場合を除いて禁止された。また,従来の連座制では,刑事裁判で総括主宰者等の刑が確定した後,検察官による当選無効訴訟が提起され,その判決によって当選無効が決まる仕組みになっていたが,この改正により,当選が無効とならないことの確認を求める訴訟を当選人が提起しない限り,当選が無効となる制度に改められた。
 昭和57年8月の一部改正(同月施行)においては,参議院議員選挙制度の改革による拘束名簿式比例代表制選挙の導入に伴い,「名簿登載者の選定に関する罪」が設けられる一方,参議院(比例代表選出)議員の選挙についての連座制の規定の適用排除がなされるなどした。
 平成元年12月の一部改正(2年2月施行)においては,金のかからない政治の実現と選挙の公正の確保に資するため,公職の候補者等が行う寄附の禁止についての罰則の強化等が行われ,候補者等がその選挙区内にある者に対してする寄附については,候補者等が自ら出席する結婚披露宴及び葬式等に係る祝儀,香典等の供与を除き,罰則の対象とされた。また,あいさつを目的とする有料広告の制限違反の罰則が新設された。
 平成4年12月の一部改正(一部を除き同月施行)においては,いわゆる百日裁判の迅速化のために,この対象となる刑事訴訟については,裁判長は,第一回の公判期日前に,審理に必要と見込まれる公判期日を一括して定めなければならない旨の規定が置かれ,公職にある間に収賄罪を犯し刑に処せられた者に係る公民権停止規定の新設等がなされた。
 その後,平成6年2月の一部改正(一部を除き同年12月施行)により,連座制が強化され,立候補予定者の親族並びに候補者及び立候補予定者の秘書を新たに連座制の対象とした。また,連座制の効果について,当選無効に加えて,連座裁判確定等のときから5年間,立候補制限を科することとした。同年11月の一部改正(同年12月施行)においては,新たな連座の対象として組織的選挙運動管理者等が規定された。
(2) 政治資金規正法
 昭和23年7月に公布・施行された政治資金規正法(昭和23年法律第194号)は,第一に,政党,協会その他の団体,公職の候補者及び第三者の政治活動に伴う資金の収支を公の機関に報告させ,もってこれらの資金の全ぼうを一般国民の前に公開する措置,第二に,主として選挙に伴う不正行為の発生を未然に防止するため,政治資金の寄附を制限する措置,第三に,以上の二つの措置に対する違反行為の処罰及びその結果としての当選無効,選挙権・被選挙権の喪失等に関する措置等を規定した。同法は,その後平成8年末までの間に16回にわたる改正を経ているが,罰則に関連する主な改正は以下のとおりである。
 昭和25年4月に公布(同年5月施行)された公職選挙法の施行及びこれに伴う関係法令の整理等に関する法律(昭和25年法律第101号)による改正においては,公職選挙法中に,選挙に関する寄附の制限規定,当選無効規定,選挙権・被選挙権の喪失規定が設けられ,政治資金規正法中のこれらの規定が整理された。
 昭和50年には,現実に即した政治資金の授受の規制・収支の公開の強化等により,政治活動の公明と公正を図るための改正(51年1月施行)がなされている。この改正においては,寄附の量的制限及び質的制限,すなわち,国又は地方公共団体から給付金の交付を受けている法人等,特定の法人による寄附を制限し,その違反者に対する罰則規定を設けるなどした。
 なお,昭和55年の改正(56年4月施行)においては,公職の候補者は,その政治資金をその他の資金と明確に区別するとともに,選挙運動に関するものを除き,その政治資金を政治団体に取り扱わせることとするよう努めなければならない旨を明らかにした。
 平成4年の改正(一部を除き5年1月施行)においては,政治資金パーティー開催の適正化に関する規定が設けられるとともに,政治活動に関する寄附の量的制限違反行為に係る罰則が強化され,さらに,違法な寄附の必要的没収追徴規定が設けられるなどした。
 平成6年2月の一部改正(一部を除き7年1月施行)においては,会社,労働組合,職員団体その他の団体のする政治活動に関する寄附の制限の強化等を図るとともに,公職の候補者の選挙運動を除く政治活動に関する金銭等による寄附を禁止し,併せて,公民権停止制度を再び設け,両罰規定の適用範囲を拡大するなどした。