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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/5 

5 風俗関係法令

(1) 売春防止関係法令
 終戦までは,売春に関しては,これに伴う人身売買の防止についての種々の立法又は行政上の努力がなされはしたものの,娼妓取締規則(明治33年内務省令第44号)の下,公娼制度が容認されていた。一方,警察犯処罰令(明治41年内務省令第16号)の下で,私娼による密売淫は罰則をもって禁止されていた。
 終戦後,公娼制度の廃止に関する連合国軍最高司令官の日本政府に対する覚書が発せられたことにより,昭和22年1月,いわゆるポツダム勅令として婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和22年勅令第9号)が公布・施行され,婦女を困惑させて売淫させる行為,及び婦女に売淫させることを内容とする契約を結ぶ行為が処罰の対象とされ,また,同月の警察犯処罰令の改正により,密売淫に限らず,「売淫をし,又はその媒合若しくは客止を為した者」が処罰されることとなった。しかし,23年5月の軽犯罪法(本節3参照)の公布・施行に伴い,警察犯処罰令は廃止され,この後,全国的な法制としては,単純な売春行為自体を処罰するものはなくなった。
 その後,昭和23年6月には売春等処罰法案が政府から国会へ提出されたが審議未了となり,また,28年から30年にかけては議員提出による売春等処罰法案が審議されたものの,廃案又は否決されて,いずれも成立には至らず,31年5月に至って売春防止法(昭和31年法律第118号)の公布(32年4月施行。刑事処分に関する規定は33年4月施行)を見ることになった。この施行とともに,ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第137号)により,法律としての効力を有して存続していた婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令は廃止された。もっとも,22年から23年にかけて施行された職業安定法,労働基準法及び児童福祉法において,婦女を売春させるような行為を禁止する各種規定が設けられている。
 なお,警察犯処罰令の廃止後も多くの地方公共団体において売春行為自体やそれに関連する行為を処罰する旨を定めた条例が制定されていたが,売春防止法の刑事処分に関する規定の施行に伴い,これらは効力を失った。
 売春防止法は,売春の違法性・反社会性を明らかにし,売春行為及びその相手方となる行為を禁止したものの,その違反行為に対する捜査を徹底しようとすればプライバシーを侵害するおそれがあること,売春を行った婦女はむしろ被害者的な立場にある者として保護救済の対象とすべきであること,売春を助長する行為を処罰すれば,売春防止の効果を挙げ得ることなどの理由から,その違反行為については処罰規定を設けず,売春の勧誘等に加え,売春の周旋,場所提供,管理売春等の売春助長行為を処罰する規定が設けられた。
 昭和33年3月の売春防止法の一部改正(同年4月施行)においては,売春の勧誘等の罪を犯した女子に対する補導処分の規定が設けられたが,この改正と同時に,婦人補導院法(第2編第2章第3節3参照)が制定されている。
 なお,売春に関する国際条約として,1949(昭和24)年12月の国際連合総会で人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約(昭和33年条約第9号)が決議・承認されたが,我が国は,売春防止法の施行を待ってこれに加入した。
(2) 風俗営業取締関係法令
 終戦前は,現行法上は風俗営業とはされていない興業場,旅館,公衆浴場等についても,善良な風俗の保持と公衆衛生の双方の見地から,庁府県令に基づく警察の規制がなされていた。
 昭和23年7月に公布(同年9月施行)された風俗営業取締法(昭和23年法律第122号)は,終戦直後の急激な社会変動に伴う道徳観念の混乱,風俗のびん乱が憂慮されたなか,善良な風俗の保持,風俗犯罪の予防という見地から,風俗に関する営業を規制することとした。規制対象業種は,[1]客席で客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業,[2]設備を設けて客にダンスをさせる営業,[3]玉突場,まあじゃん屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業の三業種とされた。これらの営業を営もうとする者は都道府県等の公安委員会の許可を受けなければならないとし,公安委員会による許可取消し,営業停止等の行政処分を認めるなどした。
 なお,従来警察の規制がなされていた他の業種については,興業場法(昭和23年法律第137号),旅館業法(昭和23年法律第138号),公衆浴場法(昭和23年法律第139号)等によって規制されることとなった。
 風俗営業取締法は,その後,平成8年末までの間に17回にわたる一部改正がなされているが,そのうち主要なものは以下のとおりである。
 昭和29年5月の改正(同年5月施行)においては,ぱちんこ屋が規制対象に加えられ,30年7月の改正(同年7月施行)においては,玉突場が規制対象から外された。34年には,当時いわゆる深夜喫茶が急増し,青少年の不良化の温床となっていたことから,これに対処するとともに,業界の実態に合わせて規定を整備し,罰則を強化する改正(同年4月施行)がなされ,規制対象に飲食店の深夜営業のほかに喫茶店,バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で,客席における照度を暗くして営むものなどが加えられた。また,この改正において,法律名が風俗営業等取締法と改められた。
 昭和39年には,34年の改正にもかかわらず,深夜喫茶等が少年非行を誘発していたことから,これに対処し,年少者に対する保護を徹底するとともに,規制の範囲を明確にし,行政処分及び罰則を整備強化する改正(同年8月施行)がなされている。この改正においては,風俗営業者及び飲食店の深夜営業者が18歳未満の者を接客業務に従事させたときは,過失の場合でも処罰の対象とし,飲食店営業者が深夜営業において条例で定める遵守事項に違反した場合も処罰の対象とするなどした。
 昭和41年の改正(同年7月施行)では,善良な風俗の保持と青少年の非行防止の見地から,風俗営業とされてはいないものの,個室付浴場,ヌードスタジオ,ストリップ劇場等の営業が新たに規制の対象とされ,個室付浴場業の営業地域を規制し,営業者等が営業に関していわゆる風俗犯罪を犯したときは,公安委員会が営業の停止を命ずることができるものとするなどした。
 昭和47年の改正(同年7月施行)においては,当時モーテルが急増し,風俗上の幣害が著しいことから,モーテル営業を規制し,条例で定めた地域での営業を禁止し,これに違反したものに対しては,公安委員会が営業の廃止を命ずることができるものとし,この廃止処分に違反する行為を処罰の対象とした。
 昭和59年の改正(60年2月施行)においては,従来の風俗営業等取締法による規制対象となっていたもののほかに,ゲームセンター,ラブホテル,あからさまに性を売り物にしたのぞき劇場やアダルトショップ等,善良な風俗の保持及び少年の健全育成の上から問題の多い営業が増加し,風俗環境を害するとともに,少年非行が55年以降戦後最悪の記録を更新し続けていたという背景事情の下,これに対処するための大幅な改正が行われ,法律名が風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律と改められた。この改正においては,ゲームセンター等が風俗営業に加えられるとともに,風俗営業は業務の適正化を通じてその健全化を図るべき営業であることが明確にされた。また,従来から規制されていた個室付浴場,モーテルを含めて,ラブホテル,アダルトショップ等のいわゆる性風俗に関する営業を風俗関連営業と定義してこれらの営業を届出制とするなど,各種規定の整備がなされている。