(1) 調査対象者の属性
調査対象者は,被害者の配偶者98人(25.7%),親130人(34.0%),子供87人(22.8%),祖父母1人(0.3%),兄弟姉妹53人(13.9%)及びその他13人(3.4%)となっている。
III-60表は,被害者遺族の男女別・年齢層・職業を見たものである。年齢では40歳代及び50歳代の多いのが目立つ。
III-60表 遺族の男女別・年齢・職業
(2) 事件が被害者遺族に及ぼした影響
ア 日常生活面での影響
日常生活面での影響が「あり」とした被害者遺族は,117人(30.6%)で,その内容はIII-61表のとおりである。「その他の生活面での影響」が71人と最多数を占め,その内容は広範囲に及ぶが,「家事のやりくりが難しくなった」,「高校生の長女が家事をしなければならなくなった」等,家事の負担増に関するもの,「子供が非行化」,「子供が登校拒否」,「養子に出した」等,子供の養育に関する問題,「家族が仏前に座り込んでいる」等,家庭生活の雰囲気に関する問題が特に目立った。
III-61表 日常生活面での影響
イ 職業上・収入上の影響
職業上の影響については,80人(24.0%,不詳の49人を除いた333人に対する構成比である。以下,本文においては同様に不詳を除いた総数に対する構成比で示す。)の被害者遺族が影響「あり」としており,その内容は,「働かざるを得なくなった」(28人),「無職になった」(8人),「転職」(4人)等である。さらに,被害者と被害者遺族との関係を見たものがIII-62表の[1]である。被害者遺族が配偶者である場合が影響を受けやすく,特に,夫が被害者となり,妻が被害者遺族である場合,職業上の影響を受ける比率は72.4%と高くなっている。
III-62表の[2]は,収入上の影響を被害者と被害者遺族との関係から見たものである。職業上の影響と同様の傾向を示しており,配偶者,特に,夫が被害者であり,妻が被害者遺族となった場合の影響が大きい。
なお,影響「あり」の95人(29.1%)の内容は,「収入がなくなる」35人(10.7%),「収入の減少」60人(18.3%)となっている。
III-62表 遺族の続柄別に見た被害が遺族に及ぼした影響
ウ 精神的影響
被害者遺族にとって精神的影響がないということは考えにくく,あるいは,調書等作成時点において自覚はなくとも,その後になって長期間にわたり障害を残すことも考えられるが,本調査では,精神的影響が調書等の中に明確に表れたものを取り上げ集計した。
III-62表の[3]は,精神的影響の有無について見たものである。半数以上の被害者遺族が精神的影響を表明している。また,被害者遺族が被害者の配偶者や親である場合に,より精神的影響が生じやすいことが読み取れる。精神的影響については,職業上・収入上の影響と同様,被害者と被害者遺族の家族関係などが大きく影響するのは当然であるが,配偶者の場合の影響「あり」は63人(67.0%),親の場合の影響「あり」は79人(66.9%)であり,被害者遺族が子供である場合は27人(34.2%)であった。
精神的影響の内容はIII-63表のとおりである。「その他の精神的影響」は広範な内容に及んでおり,調書等では,「憎い」,「憤り」,「悲しい」,「寂しい」等の一般的な言葉で表現されたものが多く,専門家による心理・精神医学的な聴取はなされていないが,「毎日泣き崩れて途方にくれている」,「現在又は将来に対して不安でしょうがない」,「辛くてたまらない」等,感情の整理ができずにいるものが目立った。また,事例により,「サイレンを聞くと夜中でも飛び起きる」,「人を信じられない」,「体重が20キロ減った」等,種々の精神的影響が読み取れた。
III-63表 精神的影響の内容
(3) 被害者遺族の感情等
ア 被害者遺族の加害者に対する感情等
本調査では,被害者遺族の感情を見るために,被害者遺族が加害者に対しどのような処罰を望んでいるか(以下,「処罰感情」という。),及び加害者の社会復帰(釈放)についてどのような意見を有しているか(以下,「社会復帰についての意見」というのの二つを指標として用いた。もとより,被害者遺族の感情は,こういった感情や意見によって言い尽くされるものではないが,ここでは被害者遺族感情を把握するための指標として,この二つを用いた。
III-64表の[1]は,被害者遺族の処罰感情を見た結果である。調査対象総数382人中280人(73.3%)の被害者遺族が加害者を死刑(極刑)に処する希望を表明しており,また,47人(12.3%)が無期懲役刑又は厳しい処罰という「厳罰」の希望を表明している。死刑と厳罰を希望するものを合計すると,総数382人中327人(85.6%)(処罰感情が不詳である7人を除いた人員の87.2%)となっている。
III-64表の[2]は,被害者遺族の社会復帰についての意見を見た結果である。判決の確定前の調書等を調査の対象としているため,社会復帰について具体的な表明を行っていない被害者遺族も多く,その結果,社会復帰についての意見が不詳の被害者遺族は144人(総数の37.7%)にも及んでいる。不詳の人員を除く238人の各意見の構成を見ると,200人(84.0%)が加害者の社会復帰に反対すると述べており,社会復帰を容認する意見を表明する者は14人(5.9%)にすぎなかった。
III-64表 被害者遺族の加害者に対する処罰感情・社会復帰についての意見
イ 被害者遺族の状況と被害者遺族の処罰感情
III-65表は,被害者自身と被害者遺族との続柄を,配偶者,親,子供及びその他という四つに分類し,被害者遺族の続柄別に加害者に対する被害者遺族の処罰感情を見たものである。死刑を希望する者の比率は,親において最も高く,次いで配偶者,子供の順となっている。
III-65表 被害者遺族の続柄別に見た加害者に対する遺族の処罰感情
ウ 被害者と加害者との関係及び被害者遺族の処罰感情
被害者と加害者との面識の有無を見ると,今回の調査の対象となった382人中208人(54.5%)の被害者が生前に加害者と面識を有しており,また,残りの174人(45.5%)が面識を有していなかった。III-66表は,被害者遺族の処罰感情を被害者と加害者との関係別に見たものである。被害者と加害者との関係が疎遠であるほど,死刑を希望する被害者遺族の比率が高いという傾向が見られた。
III-66表 被害者と加害者の関係別に見た加害者に対する遺族の処罰感情
(4) 被害者に対する措置
ここでは,加害者は,精神的にも生活面においても甚大な影響を被っている被害者に対してどの様な反応を示しているかを,謝罪,香典等及び損害賠償という三つの具体的な慰謝の措置に関して見たものである。
ア 慰謝の措置の実態
III-67表の[1]は,加害者によってなされた謝罪の措置について,加害者の家族等又は弁護士によって,被害者遺族宅への来訪,書簡,又はその他の手段で,謝罪がなされたか否かを,被害者遺族の調書等から見たものである。何らかの形で謝罪がなされているとする被害者遺族は,総数382人中113人(29.6%)であり,謝罪がなされでいないとする者は170人(44.5%)であった。また,残りの99人については,謝罪があったか否かを調書等から判断することができなかった。加害者が謝罪をどのように行っているかを見ると,加害者の家族等によって直接謝罪が行われる方が,弁護士等の第三者を通じて行われるよりもはるかに多かった。
III-67表 加害者側による慰謝の措置の有無
III-67表の[2]は,加害者によって香典等の金品が支払われているかを見たものである。香典等の金員が支払われているとする被害者遺族は,総数382人中57人(14.9%)であり,支払いがなかったとする者は241人(63.1%)であった。残りの84人(22.0%)については,そのような形での支払いがあったか否か調書等から判断することはできなかった。
III-67表の[3]は,被害者の人的被害に係る損害賠償について見たものである。加害者から損害賠償の申出があったと述べている被害者遺族は382人中49人(12.8%)であり,その内訳は,損害賠償の約束が成立したと述べている者が29人(7.6%),加害者から申出があったが拒否したとする者が16人(4.2%),申出があったがまとまらなかったとする者及び申出があって交渉中とする者が,それぞれ2人(0.5%)であった。それに対して,加害者から被害弁償の申出がないとする者は242人(63.4%)であった。残りの91人(23.8%)は,損害賠償の成否について調書等から判断することができなかった。損害賠償金の支払いについて見ると,損害賠償の約束を結んだ29人のう.ち25人の被害者遺族が賠償金を受け取っていた(全額の支払いがあったものだけでなく,一時金及び分割払いの場合も含む。)。
イ 慰謝の措置と被害感情
III-68表は,謝罪の有無別及び香典等の有無別に,加害者に対する被害者遺族の処罰感情を見た結果である。謝罪があったとする被害者遺族一とそうでない被害者遺族との間で,被害者に対し死刑を望む者の比率は若干の差が見られたが(前者の78.6%に対し後者の75.0%),香典等の金品の支払いがあったとする被害者遺族とそうでない被害者遺族との間では死刑を望む者の比率はほとんど差がなかった(前者の75.4%に対し後者75.9%)。また,厳罰を望む者の比率にも目立った差はなかった。
III-68表 慰謝の措置別に見た加害者に対する遺族の処罰感情
III-69表は,[1]損害賠償の約束が成立したとする被害者遺族,[2]加害者から損害賠償の申出があったが,その約束が不成立又は未成立であるとする被害者遺族,及び[3]加害者から損害賠償の申出がなかったとする被害者遺族という三つのカテゴリーの被害者遺族の間で,加害者に対する処罰感情に差異があるかを見たものである。死刑を望む者の構成比は,損害賠償の約束が不成立又は未成立としている被害者遺族の中では90.0%であり,加害者から申出がないとする被害者遺族の中では76.5%であった。それに対して,損害賠債の約束が成立しかとする被害者遺族の中で死刑を希望する者は62.1%であり,その比率は比較的低い。
III-69表 損害賠償交渉の経過別に見た加害者に対する遺族の処罰感情
ウ 損害賠償の約束と被害者・加害者関係
損害賠償の約束が成立したとする被害者遺族の内訳を,被害者と加害者との関係別に見ると,損害賠償が成立した29人中親族が2人,仕事仲間・友達・その他の知人が19人であり,被害者と加害者とが面識を有している場合の被害者遺族が合計21人(損害賠償の約束の成立した者の72.4%)であった。これに対して,被害者と加害者とが面識を有していない場合の被害者遺族は8人(同27.6%)にすぎなかった。損害賠償の約束の有無が不詳であった被害者遺族を除き,被害者と加害者とが面識を有している場合とそうでない場合とで,損害賠償の約束が成立したとする被害者遺族の比率に差がないかどうが比較したところ,面識を有している場合には157人中30人(19.1%)について損害賠償の申出があり,そのうちの21人(損害賠償の申出があったとする者の70.0%)について損害賠償が成立していた。これに対して,面識のない場合には134人中19人(14.2%)について損害賠償の申出があり,そのうち8人(申出があったとする者の42.1%)について損害賠償が成立していた。