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 平成 8年版 犯罪白書 第3編/第4章/第5節/4 

4 まとめ

 本特別調査の結果,明らかにされたことを簡潔にまとめると,以下の各点を挙げることができる。
 まず,60年代において,死刑・無期刑を選択されるほどに凶悪重大な殺人・強盗致死事犯の実態については,[1]行為者の大多数が犯行時20歳代から40歳代の男子であること,[2]確定的殺意を有するものが90%以上を,殺害についての計画性を有するものが50%以上を占めること,[3]犯行の態様については,殺人,強盗致死共に,使用した凶器は,刀剣類・刃物,ひも・コード・布類が多く,特に殺人においては,銃砲を使用したものもかなりの数に上ること,[4]殺人では,被殺害者が複数のものが過半数を占めているが,強盗致死では,被殺害者が1人のものが90%を超えていること,[5]被殺害者の年齢は,殺人では20歳代から50歳代までで約70%を占めるが,強盗致死では70歳以上が最も多く,20歳代から70歳以上までおおむね均等に分布し,被殺害者の男女別は,殺人,強盗致死のいずれにおいても女子が過半数を占めること,[6]被殺害者の遺族の被害感情は,ほとんどすべての例において犯人の極刑・厳罰を求めており,犯人を宥恕しているものはごくわずかであること,[7]多少なりとも被害弁償・慰謝の措置がなされたものは,殺人では約27%,強盗致死では約18%であることなどが判明した。
 さらに,60年代の凶悪重大事犯の量刑について,死刑と無期刑とがいかに選択されているかを分析すると,[1]殺害された者が1名の場合には,同種無期刑前科の仮出獄中に犯行に至ったもの,身の代金目的の誘拐に伴うもの,生命保険金入手目的によるものなど,極めて悪質な事案について死刑が選択されている一方(殺人では約14%,強盗致死では約3%),殺害された者が2名以上の場合であっても,殺人では約70%,強盗致死では約27%について無期刑が選択されていること,[2]未必的な殺意しかない場合に死刑が選択されたのは,保険金入手目的で放火し6名を焼死させた事案や強姦目的で2名を殺害した事案等極めて悪質なものに限られていること,[3]殺害について計画性が認められる場合でも死刑を選択されていない例が多い一方,計画性が認められない場合でも,同種無期刑前科の仮出獄中の犯行,身の代金目的の犯行,被殺害者が複数に及ぶ犯行などの悪質事案については死刑が選択され,ている例もあること,[4]犯行時20歳未満の者についてはほとんどの判決において未成年であることが有利な事情として掲げらわているが,被殺害者が多数に及ぶなど極めて悪質な場合においては死刑が選択される例もあること,[5]殺人,強盗致死の同種前科がある場合には死刑が選択される比率が高いこと,[6]身の代金やわいせつ目的等の事案において被殺害者の年齢が幼児や年少者である場合には死刑が選択される比率が高いように見受けられること,[7]死刑が選択されるのは,被殺害者と犯人との関係において,原則として犯人側に酌むべき事情がない場合に限られているようであること,などの点を指摘することができる。
 このような分析からは,裁判実務において,死刑は,凶悪量大事犯の中でも特に悪質な事件についてのみ選択され,極めて慎重かつ謙抑的に適用されていることを看取することができる。