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 平成 7年版 犯罪白書 第4編/第9章/第1節/1 

第1節 アメリカ

1 法令による規制の概要

 アメリカにおける薬物の規制は,連邦法と各州法により行われているが,ここでは,連邦法について概観することとする。
 連邦では,1914年に制定された「ハリソン麻薬法」(Harrison Narcotics Act of1941)が50年以上にわたり薬物等の規制及び違反行為に対する取締りの基本法とされ,度重なる改正により規制が強化されてきたが,1970年,従来の連邦薬物規制関係法令を統合する形で「総合薬物濫用防止及び規制法」(Com-prehensive Drug Abuse Prevention an dControlAct of1970)が制定された。
 同法中の「規制物質法」(ControlledSubstancesAct)と通称されるタイトルII(連邦法典第21編第13章第1節に当たる。)と「規制物質輸出入法」(Contr0lledSubs tances Import and ExportAct)と通称されるタイトルIII(同章第2節に当たる。)が薬物の濫用防止と規制に係る部分であり,現在までこれが連邦における薬物犯罪取締りの基本法となっている。その後,1984年の1総合犯罪規制法」(ComprehensiveCrimeControl Act of1984)による改正で,コカイン,LSD等について罰則の加重規定が新設されるとともに,罰金額の引上げ等がなされ,さらに,1986年の1薬物濫用対策法」(Anti-Drug Abuse Act of1986),1988年の「薬物濫用対策改正法」(Anti-DrugAbuse Amendments Act of1988)により,一定の規制対象薬物について罰則の加重規定が設けられるなどし,1990年にも若干の改正があって現在に至っている。
 なお,上記「薬物濫用対策法」により,マネー・ローンダリングについての罰則等に関する規定も新設された。
 規制の主な内容を見ると,規制対象薬物を,[1]濫用の可能性の程度,[2]医療における必要性,[3]精神・身体への影響の程度などの観点から,I種(アセチルメタドール等のあへん剤,コディン・ヘロイン・モルヒネ等のあへん誘導体及びLSD・大麻等の幻覚誘発物質),II種(あへん,けし・けしから,コカ葉・コカイン,メタンフェタミンの注射液等),III種(アンフェタミン,注射液を除くメタンフェタミン,一定数量以下のあへん・コディン等を含有する混合物等),IV種(バルビタール等),V種(IIIよりも微量の一定数量以下のあへん・コディン等を含有する混合物等)の5段階に分類し,法律で許されている場合以外のこれら薬物の製造(manufacture),譲渡し(distribution),調剤(dispense),所持(possession),輸入,輸出等を禁止し,薬物の種に応じて違反行為に対する罰則を定めている。
 IV-35表は,連邦の「規制物質法」及び「規制物質輸出入法」による主要な取締り対象行為とこれに対する基本的な罰則を見たものである。

IV-35表 主要な薬物犯罪の罰則

 各違反行為に対する基本的な法定刑はIV-35表のとおりであるが,いずれについても処罰加重事由が定められている。
 所持罪については,単純所持(simple possession)と製造・譲渡し・調剤目的所持の2類型に分かれる。単純所持罪については,原則として,所持した薬物の種別を問わずに同一の法定刑(1年以下の拘禁若しくは1,000ドル以上の罰金又はこれらの併科)が定められているが,併せて,薬物犯罪の前科の回数によって加重処罰する旨規定され,拘禁刑についてだけいえば,前科1回の場合は2年,前科2回以上の場合は3年が上限となる。さらに,コカインの所持については,別途,薬物犯罪の前科回数と所持量との組合せによる加重処罰規定が置かれ,拘禁刑について見ると,5年以上20年以下と重くなる。
 製造,譲渡し,調剤,製造・譲渡し・調剤目的の所持,密輸出入等は,規制対象薬物の種によって法定刑が異なるが,ヘロイン,LSD,大麻,コカイン,メタンフェタミン等の特定の薬物については,犯罪に係るものが一定量以上である場合につき,2段階にわたる加重処罰規定が設けられている。また,犯行に係る薬物の使用により人の死亡等の結果を招来した場合や薬物犯罪の前科がある場合にも,更に加重された刑が走められている。
 なお,罰金の額については,当該薬物犯罪により得た利益額の2倍(一定の加重処罰規定に該当するときは,その2倍)と法定罰金額の上限とを比較し,大きい方の額を上限とするものとされている。