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2 少年院在院者に対する特別調査結果 法務総合研究所では,少年院在院者に対し,入院前の薬物(ここでは,シンナー等有機溶剤及び覚せい剤をいう。)濫用の実態と特質を明らかにするため,少年院の協力を得て,調査を行った。調査は,主として少年院在院者自身が調査票(アンケート)に回答する形式をとっている。調査對象は,平成6年12月1日現在の少年院者3,048人のうち,回答に得られた者3,043人(男子2,675・女子359人)である。なお,昭和56年にも,同趣旨の調査を実施しており(以下,本節では「前回調査」という。)今回の調査と比較可能な項については,適宜紹介する。
(1) 概 観 今回の調査対象者3,034人のうち,今回非行名に,毒劇法違反が含まれている者は270人,覚せい剤取締法違反がふくまれている者は368人である。各非行名別の男女別構成比をみると,今回非行名に,毒劇法違反がふくまれている者の比率は男子11,5%,女子17,0%(前回調査時,男子15.2%・女子9.0%),覚せい剤取締違反が含まれている者の比率は男子5.0%,女子37,6%(前回調査時,男子10.9%・女子20,1%)出,前回調査より,男子については毒劇法違反又は覚せい剤取締法違反により少年院に収容された者の比率が低いが,女子についてはの比率が高い。 IV-22表は,薬物濫用(以下,本節において「濫用」という。)経験を見たものである。濫用経験をもつ者は71.9%を占めており,前回調査の結果(81.1%)と比べて,濫用経験者の比率は,男子の濫用経験者の比率の減少を受け,全体で9.2ポイント低くなっているものの,依然として濫用経験者の比率は高い。濫用の内訳を見ると,有機溶剤濫用経験者が2,150人(70.9%),覚せい剤濫用経験者が655人(21.6%)で,前回調査に比較して,有機溶剤濫用経験者は8.2ポイント,覚せい剤濫用経験者は13.6ポイント低くなっている。 男女別に濫用経験者の占める比率を見ると,男子では,有機溶剤濫用経験者が69.1%,覚せい剤濫用経験者が17.1%,女子では,それぞれ83.8%,54.9%で,有機溶剤,覚せい剤共に,前回調査と同様に,男子より女子の方が濫用経験者の占める比率は高い。また,覚せい剤濫用経験者655人のうち625人は有機溶剤濫用経験者でもあり,その比率は95.4%と,前回調査(94.2%)と同様に高率を示している。特に,男子より女子で,有機溶剤及び覚せい剤の両方の濫用経験をもつ者の比率が高い。 IV-22表 少年院在院者の薬物濫用経験 (2) 年齢・職業IV-23表は,調査対象者を,濫用経験のない者(以下「無経験群」という。),有機溶剤のみを濫用している者(以下「有機群」という。),有機溶剤と覚せい剤の両方を濫用している者及び覚せい剤のみを濫用している者(以下「覚せい剤群」という。)の3群に区分し,男女別に,年齢層別及び職業別構成比を見たものである。 男子では,各群とも年長少年の比率が最も高く,次いで,中間少年,年少少年の順となっており,特に,覚せい剤群で年長少年が71.4%を占めている。 女子では,覚せい剤群で,男子と同様に年長少年の比率が最も高く(55.3%),次いで,中間少年,年少少年の順となっているが,その他の群では中間少年の比率が最も高い。 IV-23表 薬物濫用経験別に見た在院者の年齢層・職業別構成比 覚せい剤群について,年長少年の占める比率を無経験群と比較すると,男・女それぞれ無経験群の1.6倍,2.1倍に上っている。職業別構成比を見ると,前回調査と同様,男女共に無職の者の比率が高く,中でも,女子覚せい剤群に占める無職の者の比率が67.2%と最も高い。有職者の占める比率は,男子3群はほぼ同率(30%台)であるが,女子では有職者の占める比率が最も高い覚せい剤群で21.5%であり,有機群,無経験群ではそれぞれ9.2%,4.8%と,男子と比べ有職者の占める比率は低い。女子覚せい剤群の有職者の約6割は飲食店関係のサービス職業従事者である。学生・生徒の比率は,男女共に無経験群が最も高く,次いで,有機群,覚せい剤群の順となっている。 (3) 問題行動歴 IV-24表は,在院者の問題行動歴別構成比を見たものである。家庭内暴力の経験をもつ者の比率,校内(対教師)暴力の経験をもつ者の比率,暴走族経験をもつ者の比率及び暴力組織との交友又は加入経験のある者の占める比率は,暴力組織との交友又は加入経験のある女子の比率を除き,無経験群と比べて濫用経験群で高い。 濫用経験群を,さらに有機群と覚せい剤群に分けてその内容を見ると,男子では,いずれの問題行動歴についても,その占める比率は,有機群より覚せい剤群で高い。女子では,男子に見られるような一貫した傾向は見られない。女子において,有機群より覚せい剤群で高い比率を占める問題行動歴は,家庭内暴力の経験及び暴力組織との交友又は加入経験である。 このように,濫用経験をもつ者の多くは,濫用経験をもたない者よりも,過去に種々の問題行動を経験しており,また,覚せい剤の濫用経験をもつ者は,覚せい剤の濫用経験をもたない者よりも暴力組織との関連が深いことが示唆される。 IV-24表 薬物濫用経験別に見た在院者の問題行動歴別構成比 (4) 濫用の態様ア 開始時期 IV-25表は,有機群,覚せい剤群別及び男女別に,濫用の態様を,開始時期,程度,勧誘者,薬物の入手先及び体調の変化の,五つの点から見たものである。 有機群の有機溶剤濫用開始時期は,男女共に,中学時の比率が最も高いのに対し,覚せい剤群の覚せい剤濫用開始時期は,男女共,中学卒業後17歳までの比率が最も高い。ちなみに,覚せい剤群中,有機溶剤と覚せい剤の両方を濫用している者について,その濫用開始時期を見ると,小学生あるいは中学生の時に有機溶剤の濫用を始めた者は82,4%であるのに対して,18歳を過ぎて有機溶剤の濫用を始めた者はわずか1.6%である。一方,中学生の時までに覚せい剤の濫用を始めた者は16.6%であるのに対して,18歳を過ぎて覚せい剤の濫用を始めた者は25.8%であり,有機溶剤と覚せい剤の両方を濫用している者は,まず,有機溶剤の濫用を経験して覚せい剤の濫用に移行している場合が多い。 イ 頻 度 濫用の頻度について見ると,ほとんど毎日濫用していた者と週二,三回濫用していた者を合わせた比率は,男子覚せい剤群で45.4%,その他の群では70%以上であり,前回調査と同様に,濫用の頻度は高い。 ウ 勧誘者 濫用を勧誘した者別の比率を見ると,男女共に,有機群では友人,覚せい剤群では暴力組織の占める比率が最も高く,この結果は前回調査とさほど変化がないものの,今回の調査では,自分から進んで入手した者の比率が,女子覚せい剤群を除き,2割以上を占めているのが特徴である。 エ 薬物の入手先 薬物の入手先別の比率を見ると,有機群では,男女共に盗みによるものの比率が最も高く,前回調査と比べ,薬局,文具店等からの購入や,友人・知人からの譲受けの比率はかなり低くなっている。また,暴力組織や売人から入手した比率が前回調査より高くなっている。一方,覚せい剤群では,前回調査と同様,男女共に,暴力組織・売人から入手した比率が高い。 IV-25表 薬物濫用の態様別構成比 オ 体調の変化濫用によって,体調が悪くなったと訴えている者の比率は,濫用経験者の5割以上に上り,前回調査に比較し,体調の変化を訴えている者の比率は高い。特に,有機群よりも覚せい剤群で,体調が悪くなったと訴えている者の比率が高いことが特徴である。 カ その他の薬物の濫用経験 IV-26表は有機溶剤及び覚せい剤以外の薬物の濫用経験を見たものである。大麻の濫用経験をもつ者の比率が最も高く,男子よりも女子において,その比率が高い。各群を比較すると,覚せい剤群で,有機溶剤及び覚せい剤以外の薬物の濫用経験をもつ者の比率が高い。また,無経験群においても大麻等の濫用経験者がいることが分かる。 IV-26表 薬物濫用経験別に見た他の薬物濫用経験 IV-35図は濫用したことのある薬物数の男女別構成比を見たものである。有機溶剤及び覚せい剤を含め,2種類の薬物を濫用した経験のある者は,総数の16.6%,3種類が10.2%,4種類以上が7.2%であり,男女別に見ると女子の方が男子より,多種の薬物の濫用経験をもつ者の比率が高い。IV-35図 濫用薬物数の男女別構成比 (5) まとめ今回の特別調査の結果をまとめると,以下のとおりである。 [1] 前回調査と比べ,少年院在院者中,毒劇法違反により収容された者の比率は,男子で減少し,女子では増加した。 [2] 同じく,覚せい剤取締法違反により収容された者の比率は,女子で大幅に増加し,3人に1人は覚せい剤取締法違反者である。 [3] 薬物濫用経験者は,前回調査に比べ減少したが,依然としてその比率は高い。特に,女子の覚せい剤濫用経験者の比率は,男子に比べ格段に高く,女子の2人に1人は覚せい剤の濫用経験をもつ。 [4] 覚せい剤濫用については,勧誘者,薬物の入手先共に,暴力組織の占める比率が高い。 [5] 有機溶剤の入手方法として,盗みを挙げた者の比率が格段に増加した。 また,有機溶剤の勧誘者,薬物の入手先共に,暴力組織の占める比率が増加した。 [6] 他に勧誘されずに自分から求めて薬物濫用を開始する者の比率が,前回調査より増加した。 [7] 有機溶剤や覚せい剤のほか,大麻,コカイン,LSD等,濫用薬物の多様化がみられた。 |