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 平成 7年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/3 

3 麻薬特例法

(1) 概  説
 麻薬特例法は,国際的な協力の下に「規制薬物」に係る不正行為を助長する行為等の防止を図ること等を目的として制定され,平成4年7月1日に施行された。
 麻薬特例法における「規制薬物」とは,麻薬及び向精神薬取締法に規定する「麻薬」及び「向精神薬」,あへん法に規定する「あへん」及び「けしから」,大麻取締法に規定する「大麻」並びに覚せい剤取締法に規定する「覚3い剤」をいう。したがって,「けし」,「覚せい剤原料」及び「麻薬向精神薬原料」は含まない。

IV-1表 薬物犯罪の主要な違反態様についての罰則

 また,麻薬特例法における「薬物犯罪」とは,次の(2)の[1]・[4]・[5]の各非のほか,薬物四法が規定している規制薬物等の輸入・輸出・製造・栽培・製剤・小分け・譲渡し・譲受け・周旋・交付・所持等の罪(未遂罪・予備罪を含む。),資金等提供の罪及びこれらの罪と刑法54条1項(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合等)の関係に立つ他の罪をいう。
 さらに,麻薬特例法における「不法収益等」とは,「不法収益(薬物犯罪の犯罪行為によって得た財産若しくはその報酬として得た財産又は薬物四法の資金等提供罪に係る資金)」,「不法収益に由来する財産(不法収益の保有又は処分に基づき得た財産)」又は「これらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産」をいう。
(2) 麻薬特例法の規定する新たな取締り対象行為と罰則等
[1] 業として行う不法輸入等の罪(8条)
 規制薬物の栽培,輸入,輸出,製造,譲渡し等,並びにけし及び麻薬原料植物の栽培の各非に当たる行為を業とした者に対する刑罰を,従来から存する単一の薬物ごとの違反行為の営利犯の刑罰より加重し,無期又は5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金に処することとしている。
[2] 不法収益等隠匿罪(9条)
 不法収益等の取得・処分について事実を仮装し,又は不法収益等を隠匿する等の行為(マネー ・ローンダリング)を行った者に対し,5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金を科し又はこれらを併科することとし,未遂・予備をも処罰することとしている。
[3] 不法収益等収受罪(10条)
 不法収益等を,それと知って取得し,又はその引渡しを受けてこれを支配することができる地位ないしは立場に立った者に対し,3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金を科し又はこれらを併科することとしている。
[4] 規制薬物としての物品の輸入等の罪(11条)
 規制薬物であるとの認識の下に,規制薬物でない薬物又は規制薬物であるかどうか不明な薬物その他の物品を輸入又は輸出した者に対し,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科し,同じく譲り渡し,譲り受け又は所持した者に対し,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金を科することとしている。後述のコントロールド・デリバリーのうち,送り荷中の規制薬物を取り除いて行うクリーン・コントロールド・デリバリーを実施して特定した犯人を処罰することを可能とする規定である。
[5] あおり又は唆しの罪(12条)
 薬物犯罪(ただし,上記[4]及び[5]の罪を除く。)並びに上記[2]及び[3]の罪を実行すること又は規制薬物を濫用することを,公然,あおり又は唆した者に対し,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科することとしている。
[6] 国外犯の処罰(13条)
 上記[1]・[2]・[3]・[5]の各犯罪について,日本人であると外国人であるとを問わず,その国外犯を処罰することとしている。
[7] 不法収益等の没収・追徴(14条から17条まで)
 薬物犯罪及び上記[2]・[3]の罪について,付加刑として不法収益等を没収・追徴することとし,その要件,範囲等を定めている。没収対象財産は,有体物に限らず,債権,無体財産権等経済的利益一般を含む。
[8] 不法収益についての推定(18条)
 業として行う不法輸入等の罪に係る不法収益については,当該罪を犯した期間内に犯人が取得した財産で,その価額が当該期間内における犯人の稼働状況又は法令に基づく給付の受給状況に照らし不相当に高額であるものは,不法収益と推定することとしている。
(3) 麻薬特例法の規定する新たな手続等
[1] コントロールド・デリバリーを実施するための措置(3条・ 4条)
 我が国に輸入されようとする貨物に隠匿された薬物を取り除き,又は取り除かないで当該貨物を流通させて監視する措置(コントロールド・デリバリー)を執るための上陸及び税関手続の特例措置を定めている。
 具体的には,入国審査官は,本邦への上陸を申請する外国人が規制薬物を所持する疑いがあることが判明した場合であっても,法務大臣から,薬物犯罪の捜査に関し,当該外国人の上陸が必要である旨の検察官からの通報又は司法警察職員からの要請があり,かつ,規制薬物の散逸及び当該外国人の逃走を防止するための十分な監視体制が確保されていると認められる旨の連絡を受けているときは,当該外国人の上陸を許可すやことができること(3条),及び,税関長は,本邦から輸出し,又は輸入しようとする貨物等に規制薬物が隠匿されていることが判明した場合であっても,薬物犯罪の捜査に関し,当該規制薬物が外国に向けて送り出され,又は本邦に引き取られることが必要である旨の検察官又は司法警察職員からの要請があり,かつ,当該規制薬物の散逸を防止するための十分な監視体制が確保されていると認めるときは,当該貨物等を通関させることができること(4条)とし,その後の当該外国人又は貨物等の移動状況に応じて,必要な捜査手段を講ずることができるようにしている。
[2] 金融機関等による疑わしい取引の届出制度等(5条から7条まで)
 金融機関等に対し,業務において収受した財産が不法収益等である疑いがある場合又は業務に係る取引相手が不法収益等隠匿罪に当たる行為を行っている疑いがある場合に,文書による主務大臣等への届出を義務づけるなどし,当該文書等については,検察官等において閲覧し,又は謄写することができることとしている。
[3] 没収・追徴の保全手続(24条から55条まで)
 没収保全命令により没収対象財産の処分を禁止し,追徴保全命令により被疑者・被告人の一般財産の処分を禁止するととができることとしている。
[4] 没収・追徴の裁判の執行・保全についての共助手続(56条から70条まで)
 薬物犯罪等に当たる行為に係る外国の刑事事件に関し,当該外国から,条約に基づき,没収若しくは追徴の確定裁判の執行又は没収若しくは追徴のための財産の保全の共助の要請があったとき,一定の制限事由に該当する場合を除き,その共助を行うこととし,その手続等について定めている。