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 平成 7年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節/1 

1 麻薬・向精神薬取締法令

 昭和20年9月20日に公布施行された「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件(昭和20年勅令第542号)」に基づき,次の五つのいわゆるポツダム省令が制定され,これらにより,麻薬,あへん及び大麻に関する規制が行われた。
 [1] 塩酸ヂアセチルモルヒネ及其ノ製剤ノ所有等ノ禁止及没収ニ関スル件(昭和20年厚生省令第44号)
 [2] 麻薬原料植物ノ栽培,麻薬ノ製造,輸入及輸出等禁止ニ関スル件(昭和20年厚生省令第46号)
 [3] 特殊物件中ノ麻薬ノ保管及受払ニ関スル件(昭和21年厚生省令第8号)
 [4] 麻薬取締規則(昭和21年厚生省令第25号)
 [5] 大麻取締規則(昭和22年厚生・農林省令第1号)
 昭和23年,上記各ポツダム省令が廃止され,麻薬及びあへんの取締法令として「(旧)麻薬取締法(昭和23年法律第123号)」が制定された。
 昭和28年,「麻薬取締法(昭和28年法律第14号)」が制定された。同法は,麻薬を同法別表に名称を列挙する物と限定した上,麻薬の使用を医療及び学術研究だけに限定し,麻薬の不正使用を防止するため,麻薬取扱者をすべて免許制として,免許を有しない者による取扱いを禁止した。また,同法の定める除外事由がある場合を除いて,麻薬の輸入,輸出,製造,製剤,譲渡し,譲受け,施用,所持等が禁止され,「ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)」とその他の麻薬とに区分した上で,単純犯・営利犯・常習犯・常習営利犯の区別に従って法定刑を定めた罰則が設けられた。
 その後,昭和29年の1あへん法(昭和29年法律第71号)」の制定に際しての改正を最初として,麻薬取締法は,今日(平成7年6月30日現在。以下,本節において同じ。)までに25回にわたって改正されているが,その主なものは,次のとおりである。
 まず,昭和30年代に入って麻薬犯罪が増加するとともに,悪質化したため,38年の「麻薬取締法等の一部を改正する法律(昭和38年法律第108号)」による改正により,常習犯・常習営利犯の規定が削除され,単純犯・営利犯の罰則が整理されて輸入・輸出・製造の罰則がこれら以外の違反行為の罰則より重くされ,例えば,ジアセチルモルヒネの営利目的輸入等についての法定刑の上限が懲役10年から無期懲役に引き上げられるなど,罰則全般にわたって法定刑が引き上げられ,輸入・輸出・製造についての予備罪,資金等提供罪,周旋罪等が新設された。他方,麻薬中毒者に対する措置入院制度も新設された。また,45年には,「麻薬を指定する政令(昭和29年政令第22号)」の改正により,幻覚剤であるLSDが麻薬として指定された。
 麻薬取締法は,第2章において述べた「向精神薬条約(平成2年条約第7号)」批准のために制定された「麻薬取締法等の一部を改正する法律(平成2年法律第33号)」により,名称を「麻薬及び向精神薬取締法」と改め,新たに向精神薬をも取締りの対象とした。同改正により,向精神薬について免許制度及び登録制度が設けられ,向精神薬の輸出・輸入・製造・譲渡し等につき罰則が新設されるとともに,麻薬についての罰則が強化された。
 さらに,第2章において述べた「麻薬新条約(平成4年条約第6号)」の批准に備え,また,「FATF」すなわちアルシュ・サミットの経済宣言に基づく「金融活動作業グループ」の勧告を国内的に実施することを目的として,平成3年,いわゆる麻薬二法,すなわち「麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律(平成3年法律第93号)」及び「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成3年法律第94号)」(以下「麻薬特例法」という。)が制定された。このうち,前者により,麻薬及び向精神薬取締法については,麻薬・向精神薬原材料物質についての新たな規制,資金等提供罪の処罰範囲の拡大,麻薬の運搬の用に供した車両等への没収範囲の拡大,国外犯処罰規定の新設,麻薬の小分けの罪の新設等の改正が行われた。