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 平成 7年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節 

第2節 薬物犯罪の国際的な対策・協力の現状

 世界の薬物濫用問題は,規制対象薬物の生産が特定の地域に限られ,しかも,不正かつ大量に,栽培され又は密造され,それが世界の国々に密輸され,国内流通の後,濫用されているところに共通の深刻な問題がある。国連の提唱で採択された一連の条約は,各国の政府に,規制対象薬物の生産と流通を取り締まり,その濫用と不正取引を規制し,そのために必要な行政機構を維持するとともに,その活動について国際機関に報告することを義務づけている。現在,薬物濫用に関する国際条約は,国連で採択された多国間条約が中心となっており,これが薬物濫用対策に関する国際的な規範となっている。
 主な条約を見ると,以下のとおりである。
 [1] 「1961年の麻薬に関する単一条約(SingleConv ntion on Narcotic Drugs,1961)」(以下「単一条約」という。)単一条約は,それまで多岐にわたっていた薬物に関する条約をまとめて,国際的麻薬管理を整理統合したもので,1961年3月30日,ニューヨークにおいて採択され,1964年12月13日に発効し,1994年9月現在,我が国を含む148か国の締約国を擁している。
 [2] 「向精神薬に関する条約(Convention on PsychotropicSubstances,1971)」(以下「向精神薬条約」という。)向精神薬条約は,単一条約で規制していない幻覚剤,アンフェタミン,バルビツール酸塩,非バルビツール系の鎮痛剤,精神安定剤等の濫用を防止するために締結された条約で,単一条約が採択されてから10年後の1971年2月21日,ウィーンにおいて採択され,1976年8月16日に発効し,1994年9月現在,我が国を含む131か国の締約国を擁している。
 [3] 「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(United Nations Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and PsychotropicSubstances,1988)」(以下「麻薬新条約」という。)麻薬新条約は,薬物に関する既存の条約による薬物の流通,用途の規制に加え,薬物犯罪の経済的(不法事業的)側面に焦点を当てて,不法収益のはく奪と薬物犯罪取締りの国際協力の拡充を図ることを目的としており,(a)不正取引に由来する財産の隠匿行為等いわゆるマネー・ローンダリングの犯罪化,(b)不正取引に由来する収益の没収範囲の拡大,(c)没収等を確保するための財産保全措置の導入,(d)外国の没収裁判の執行等の共助制度の採用,(e)国外犯処罰に関する規定の採用,(f)国際的なコントロールド・デリバリーの実施等の措置が盛り込まれている。1988年12月19日ウィーンにおいて採択され,1990年11月11日に発効し,1994年9月現在,我が国を含む101か国の締約国を擁している。
 また,主要先進国首脳会議(サミット)は,しばしば麻薬問題を経済宣言,政治宣言あるいは議長声明において取り上げ,この問題に関しての国際協力強化の必要性を述べている。特に1989年7月,パリで開催されたアルシュ・サミットの経済宣言に基づいて召集された「金融活動作業グループ(FinanciaLActionTaskForce)」(以下「FATF」という。)は,(a)マネー・ローンダリングの犯罪化,(b)金融機関等による顧客の身元確認及び疑わしい取引の権限ある当局への報告,(c)不法収益等の没収及びその保全,(d)麻薬犯罪の取締りに関する国際協力等についてその実施を求めることなどを盛り込んだ勧告を行っている。FATFは,サミット参加国及びマネー・ローンダリングの防止等に関心を有する国によって構成され,参加国における勧告の実施状況の監視等の活動をしている。
 なお,1990年,国連総会において,国連の麻薬統制に関する役割を強化するために,「国連国際麻薬統制計画(United Nations InternationaLDrug Control Programme)」(以下「UNDCP」という。)の設置が決定された。これにより,それまで存在していた麻薬関係部局の機能が統合され,麻薬統制に関する活動の調整,関係諸条約の履行促進及び国際的な麻薬統制の統率についてUNDCPが責任を負うこととなった。UNDCPの活動は,需要の削減,不正取引の抑制,統合的な農村開発と代替作物の奨励,麻薬常用者の治療と社会復帰等,広範囲にわたるものとなっている。