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1 女子受刑者の特質と意識 (1) 特別調査の概要
女子受刑者の特質と意識を明らかにするために,特別調査を実施した。調査対象者は,平成2年度(会計年度)に我が国の行刑施設において入所時教育を受けた受刑者中の3,181人であり,その男女別の人員は,女子185人,男子2,996人である。なお,調査対象施設は,女子施設6庁,男子施設40庁である。 この特別調査は,主として受刑者の客観的側面を知るための実態調査及び主として受刑者の主観的側面を探るための意識調査からなっており,実態調査は,施設職員が分類調査業等の公的資料に基づいて記入する「受刑者の実態調査票」により,また,意識調査は,受刑者自身が回答を記入する「生活意識に関する調査」により,それぞれ行った。 以下,特別調査の結果を,女子受刑者と男子受刑者に分けて,考察する。 IV-36表 受刑者の男女・罪種別構成比 IV-37表 受刑者の男女・入所度数別構成比 (2) 罪種及び入所度数まず,調査対象者の罪種及び入所度数において,男女間に,どのような差異が見られるかを概観する。 IV-36表は,調査対象者の罪種を男女別に見たものである。女子は,男子に比べて,薬物事犯の構成比が極めて高く,また,逆に粗暴犯及び交通事犯の構成比が低いことが特徴的である。 IV-37表は,調査対象者の入所度数を男女別に見たものである。女子は,男子に比べて,2〜5度の構成比が13.4ポイント高いが,その他はいずれも男子より低い。 IV-28図 受刑者の犯行の動機別構成比 (3) 女子受刑者の特質実態調査から見た女子受刑者の特質について述べる。 ア 犯行の動機 犯行の動機は,IV-28図に示すとおりである。女子は,[1]「遊び」(19.5%),[2]「利欲」(17.3%),[3]「共犯者に誘われて」(14.6%)の順であり,このうち,「遊び」,「共犯者に誘われて」の構成比は,男子のそれより高い。女子は,男子と比較すると,覚せい剤取締法違反者の構成比が高く,覚せい剤取締法違反の動機としては,「遊び」,「共犯者に誘われて」等が多いことを反映するものである。 IV-29図 受刑者の初発被検挙年齢層別構成比 イ 初発被検挙年齢IV-29図は,初発被検挙年齢,すなわち非行又は犯罪があり,初めて検挙された時の年齢を見たものである。20代前半までに,女子は45.4%が,男子は62.1%が検挙された経験をもっている。他方,25歳から50歳未満の間に初めて検挙された者の比率は,女子の方が男子より高い。 ウ 暴力組織との関係 IV-38表に示すとおり,暴力組織との関係が「あり」は,女子4.3%,男子27.6%で,男子の方が高いが,「暴力組織との交際等のみあり」は,男子5.7%に対し,女子は42.2%と圧倒的に高い。これは,女子覚せい剤取締法違反者の約7割が,「暴力組織との交際等のみあり」に該当することによるものである。 IV-38表 受刑者の暴力組織との関係別構成比 エ し癖等の有無アルコール依存については,「あり」と「ややあり」を合わせると,女子15.1%,男子30.2%であり,ギャンブル癖については,「あり」と「ややあり」を合わせると,女子11.4%,男子23.2%と,共に男子の方が高い。ところが,覚せい剤依存については,「あり」と「ややあり」を合わせると,女子55.7%,男子29.8%で,女子の高さが目立つ。 オ 入所前の家庭状況 (ア) 単身・同居 IV-39表に示すとおり,「単身」は,「単身・定住」,「単身・住所不定」共に男子の方が高く,殊に男子の「単身・住所不定」の構成比は,女子のそれよりも13.2ポイント高い。「同居」は,「妻(夫)子と同居」,「内妻,愛人と同居」共に女子の方が高く,殊に女子の「内妻,愛人と同居」の構成比は,男子のそれよりも約3倍に近い。 IV-39表 受刑者の入所前の家庭状況別構成比 (イ) 入所前の配偶者「なし・離別」,「なし・死別」及び「あり・別居」の構成比は女子の方が高く,この三者を合計すると,男子35.9%に対し,女子は54.1%である。 (ウ) 家族との関係 「家族の困り者」の構成比は女子の方が高く,女子では3分の1弱を占めている。「家族に頼りにされている」は,男子13.8%に対し,女子は3.8%にすぎない。 (4) 女子受刑者の意識 実態調査の対象となった受刑者全員に対して「生活意識に関する調査」と題するアンケート調査を受刑者本人に回答を求める形で実施した。実施の時期は,実態調査実施時期と同時期であり,実施の方法は,各行刑施設において,原則として集団・記名方式で実施した。 意識調査の結果の概要を,次に記述する。 ア 現在の生活意識 (ア) 頼れる人 「あなたが,家族や親戚の中で相談したり頼れる人はだれですか。」と問い,選択肢の中から複数選んでもよいこととして回答を求めた。その結果は,IV-30図に示すとおりである。 家族や親戚の中で頼れる人として,「配偶者(内縁を含む。)」を選択した者の構成比は女子58.4%,男子40.3%であり,「子供」は女子33.0%,男子18.0%で,それぞ五女子の方が高い。なお,「だれもいない」は,女子の方が低い。 次に,「あなたが,家族や親戚以外の人で相談したり頼れる人はだれてすか。」と尋ね,同様に回答を求めたところ,女子は「女の親友」の,男子は「男の親友」の選択率が最も高く,「保護司・更生保護会職員」は,女子25.9%,男子19.7%で,女子の方が高い。, (イ) 一番大切なもの 「あなたにとって一番大切なものは何ですか。また,二番目に大切なものは何ですか。一つずつ答えてください。」と尋ね,10の選択肢を用意して回答を求めた。 IV-30図 受刑者が頼りにする人物別構成比 IV-40表に示すとおり,一番大切なものとして選択された事項は,男女共に,選択率の高い順に上位4位までが,[1]「家族とのつながり」,[2]「生活の安定」,[3]「仕事」,[4]「健康づくり」の順であるが,選択率の高低で男女を比較すると,「家族とのつながり」では女子65.4%,男子52.1%で女子の方が高く,「仕事」は女子8.1%,男子14.6%で女子の方が低い。次に,二番目に大切なものとして選択された事項では,「生活の安定」が女子31.5%,男子23.9%で,男女共に最も高率である。「健康づくり」は,女子23.9%,男子21.0%と,男女共に一番目のときよりも構成比が高い。 IV-40表 受刑者の価値観に関する意識(一番大切なもの)別構成比 IV-41表 受刑者の本件犯行の責任に関する意識別構成比 イ 犯行及び罪の償いに関する意識罪を犯し受刑生活を送ることになって,受刑に至った犯行の責任,受刑に至った理由,罪の償いについて,受刑者が自分なりにどのような意識をもっているかを三つの質問で調べてみた。 (ア) 本件犯行の責任 IV-41表は,「今回の事件の責任はだれにあると思いますか。一つだけ選んでください。」と問い,5選択肢の中から択一回答を求めた結果を示している。「すべて自分」又は「大部分自分」とする者は,女子94.0%,男子93.1%でほぼ同率である。「すべて周りの人」とする者は,女子は該当者がなく,男子は1.2%である。 (イ) 受刑に至った理由 「あなたが,今回刑務所に入るようになった訳は,次のうちのどれに当たりますか。」と尋ね,13の設問について,「はい」又は「いいえ」と答えさせた。IV-42表は,各設問に対する肯定回答率を示したものである。 IV-42表 受刑者の受刑に至った理由に関する意識別構成比 肯定回答率の高い順に見ると,女子は,[1]「薬物に手を出して」が53.0%で過半数を占め,次に[2]「やけを起こして」(46.5%),[3]「生活が苦しくて」及び「怠け癖がついて」(共に37.3%),[5]「悪い仲間に誘われて」(28.1%),となっている。なお,「異性関係に失敗して」を見ると,女子の肯定回答率(24.3%)は男子のそれ(11.6%)の約2倍である。(ウ) 罪の償い 「あなたは,罪の償いについて,どう思いますか。」と問い,6選択肢の中から択一回答を求めた結果を,IV-43表に示してある。1位は,男女共に,「被害の賠償だけでなく更生する必要がある」で,それぞれ6割を超えている。「釈放時までに被害の賠償をすればよい」,「謝るだけでよい」及び「何もする必要はない」の三者を合計すると,女子4.4%,男子4.2%と共に低率である。 IV-43表 受刑者の罪の償いに関する意識別構成比 ウ 将来に関する意識(ア) 出所後の生活に対する不安の内容 「あなたが,出所後の生活で不安に思っていることは何ですか。」と問い,13の選択肢について幾つでも選んでよいこととした。その結果は,IV-31図に示すとおりである。「前科のこと」の選択率が女子では最も高く51.4%と過半数を占め,男子も36.6%で3分の1を超えている。 (イ) 老後の生活費 「あなたは,老後働けなくなったら生活費はどうするつもりですか。」と尋ね,6選択肢の中から択一回答を求めた。IV-32図を見ると,男女とも,「自分の貯金や財産で暮らす」の構成比が最も高いが,女子の構成比は,男子のそれよりかなり低く,女子は比較的自活力が弱いことがうかがえる。 IV-31図 受刑者の出所後の生活に対する不安の内容別構成比 (5) まとめ上記の調査結果を見ると,女子は,男子に比べ,罪種においては薬物事犯の構成比が,犯行の動機では「共犯者に誘われて」の構成比がそれぞれ高く,また,暴力組織との関係の有無において,「暴力組織との交際等のみあり」の構成比が高いことなどが分かる。そして,女子は,男子よりも家族とのつながりを大切にする気持ちが強いが,異性関係に失敗し,あるいは配偶者に恵まれないで,出所後の生活に不安を感じ,頼れる人として保護司・更生保護会職員を選ぶ率が高く,老後の生活費として自分の貯金や財産で暮らすとする者の比率が低いことなどが注目される。このような女子受刑者の特質と意識を踏まえ,矯正処遇全般を通じて,精神的にも経済的にも,自立性を強化するよう指導するとともに,受刑中における家族関係の調整,帰住先の確保などの保護的措置について,よりきめの細かな配慮を行っていく必要がある。 IV-32図 受刑者の老後の生活費に関する意識別構成比 |