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 平成 4年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節/2 

2 刑法犯

(1) 起訴猶予率と女子比
 昭和41年から平成3年までの,業過を除く刑法犯の起訴・起訴猶予の各人員と起訴猶予率を見ると,IV-13表のとおりであり,女子の起訴猶予率は男子より極めて高い。したがって,検察官による起訴の段階における女子比は,警察による検挙の段階における女子比より,相当低くなることが分かる。
 このことから,刑事手続の各段階において,女子は男子より,軽い処分を受ける傾向があるのではないかと推定されるので,そのことを確かめることとする。

IV-13表 業過を除く刑法犯の男女別起訴・起訴猶予人員及び起訴猶予率

 ただし,公表されている統計上,警察による微罪処分の人員の女子比は明らかでない。また,実刑判決人員の女子比も明らかでない。
 そこで,犯時20歳以上の者について,業過(ただし,検挙人員については交通関係業過のみ)を除く刑法犯により,[1]警察により検挙された人員,[2]検察官により起訴された人員,[3]新受刑者となった人員,のそれぞれにおける女子比を見ると,IV-6図のとおりである。[1]及び[2]の人員は,犯時20歳以上の者であるが,[3]の人員は,入所時20歳以上の人員であるし,統計上の制約から罪名の範囲を統一できない(例えば,交通業過とそれ以外の一般の業過とを区別している統計とそうでない統計とがある。)上,各統計ごとに,人員の数え方に微妙な差があるため,厳密な比較をすることは困難であるが,この図により,検挙,起訴,公判手続における判決と刑事手続が進むにつれ,女子比が低くなる傾向,すなわち,これら刑事手続の各段階において女子は男子より軽い処分を受ける傾向があることが確認できる。

IV-6図 刑事司法の各段階における女子比

IV-14表 窃盗の男女別公判請求・起訴猶予人員及び公判請求率

(2) 窃  盗
 窃盗の法定刑の種類は有期懲役のみであり,罰金は定められていない。
 窃盗の公判請求人員,起訴猶予人員及び公判請求率(公判請求人員及び起訴猶予人員の和に対する公判請求人員の比率)を昭和54年以降について男女別に見ると,IV-14表のとおりであり,男子の公判請求率が60%台であるのに比べ,女子の公判請求率はせいぜい20%程度と低い。これは恐らく,女子の窃盗には,男子と比べると,軽微な万引き等が多いからであると思われるが,実刑前科者率(起訴人員に占める実刑前科者の割合)が低いことも影響していることが考えられる。
 そこでさらに,被疑者調査票に基づく調査により,男女別に,5歳刻みの年齢層別に最近の5年間における公判請求人員と起訴猶予人員とをそれぞれ合計し,年齢層別平均公判請求率を求めると,IV-7図のとおりであり,男子の公判請求率が30歳代後半をピークとしてその後は年齢層が上がるにつれて低下する傾向が見られるのに比べ,女子の公判請求率は,30歳代後半から上昇して40歳代後半にピークに達し,50歳代からようやく低下を始める点に特徴がある。

IV-7図 窃盗の男女・年齢層別平均公判請求率

 最高裁判所の資料により,昭和54年から平成2年までの間に,第一審裁判所において,窃盗(ただし,本節においては,不動産侵奪及び盗犯等防止法による加重類型を除く。)により有罪とされた人員,うち,実刑を言い渡された人員,実刑率及び実刑判決の平均刑期を男女別に見ると,IV-15表のとおりであり,女子の実刑率は男子より低く,かつ,実刑判決の平均刑期も男子より短い。

IV-15表 窃盗の男女別有罪・実刑人員,実刑率及び実刑判決の平均刑期

 そこでさらに,男女別に,5歳刻みの年齢層別に昭和61年から平成2年までの5年間における有罪人員,実刑人員及び実刑判決の刑期をそれぞれ合計し,年齢層別に平均実刑率及び実刑判決の平均刑期を求めると,IV一8図のとおりであり,年齢が高くなるにつれて実刑率は上昇する傾向があるが,実刑判決の平均刑期は,余り変化がないことが分かる。
 年齢層が上がるにつれて公判請求率は低くなるのに実刑率が高くなるのは,既に平成2年版犯罪白書第4編第3章第3節1において詳しく分析したように,起訴された者はその年齢層が上がるにつれて実刑前科者率も高まるということが一つの大きな要因となっているものと考えられる。

IV-8図 窃盗の男女・年齢層別平均実刑率及び実刑判決の平均刑期

(3) 詐  欺
 詐欺の法定刑の種類は,窃盗と同様有期懲役のみであり,罰金は定められていない。
 詐欺の公判請求人員,起訴猶予人員及び公判請求率を昭和54年以降について男女別に見ると,IV-16表のとおりであり,女子の公判請求率は,窃盗の場合と異なり,はるかに高い。女子詐欺犯の犯罪性には,男子詐欺犯にかなり近いものがあるためであろう。
 そこでさらに,被疑者調査票に基づく調査により,男女別に,5歳刻みの年齢層別に最近の5年間における公判請求人員と起訴猶予人員とをそれぞれ合計し,年齢層別平均公判請求率を求めると,IV-9図のとおりであり,窃盗の場合と異なり,公判請求率は,男女とも,どの年齢層においてもほぼ近接した値を示している。

IV-16表 詐欺の男女別公判請求・起訴猶予人員及び公判請求率

IV-17表 詐欺の男女別有罪・実刑人員,実刑率及び実刑判決の平均刑期

 最高裁判所の資料により,昭和54年から平成2年までの間に,第一審裁判所において,詐欺により有罪とされた人員,うち,実刑を言い渡された人員,実刑率及び実刑判決の平均刑期を男女別に見ると,IV-17表のとおりであり,実刑率は,男女とも窃盗より高いものの,男子が高く女子が低いという点は窃盗の場合と同じである。しかし,実刑判決の平均刑期を見ると,いずれの年においても,女子の平均刑期の方が男子の平均刑期より長い。

IV-9図 詐欺の男女・年齢層別平均公判請求率

 そこでさらに,男女別に,5歳刻みの年齢層別に昭和61年から平成2年までの5年間における有罪人員,実刑人員及び実刑判決の刑期をそれぞれ合計し,年齢層別に平均実刑率及び平均刑期を求めると,IV-10図のとおりであり,実刑率は,窃盗と同様,年齢層が高くなるにつれて上昇する傾向が見られるが,実刑判決の平均刑期は,20歳代から30歳代までは男子が女子より長いが,窃盗と異なり,40歳代以後は逆転し,女子の方が男子より長くなっていることが分かる。これは,恐らく,中高年齢層の男子には,被害金額が僅少な無銭飲食,無賃乗車等軽微な詐欺を繰り返し犯す者が比較的多く,そのため比較的短期の実刑判決を受ける男子が多いということが一つの大きな要因になっているものと考えられる。

IV-10図 詐欺の男女・年齢層別平均実刑率及び実刑判決の平均刑期

(4) 業務上過失致死傷罪
 業務上過失致死傷罪の法定刑の種類は,有期懲役,有期禁錮及び罰金である。有罪人員のほとんどは,交通関係業過により有罪とされた者である。
 最高裁判所の資料により,昭和54年から平成2年までの間に,通常の公判手続により第一審裁判所において業務上過失致死又は同傷害により有罪とされ自由刑(懲役又は禁銅)を言い渡された者について,有罪人員,うち,実刑人員,実刑率及び実刑判決の平均刑期を男女別に見ると,IV-18表のとおりである。
 警察庁交通局の資料によれば,同期間中,女子の運転免許保有者は,約1,149万人から約2,288万人に増加し,全運転免許保有者中女子の占める割合も28.0%から37.6%へと増加しているが,女子で業務上過失致死傷罪により公判請求され第一審において有罪とされる者及びそのうち実刑を言い渡される者は,いずれも極めて少数である。したがって,業務上の過失により悪質重大な事故を起こす者は,少ないようである。