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 平成 4年版 犯罪白書 第4編/第1章 

第4編 女子と犯罪

第1章 序  説

 一般に,女子の犯罪は,男子の犯罪と比較して量的に少なく,質的にも男子と異なる特色を持っていると言われている。これまで,女子の犯罪は,その原因を,社会的要因より,女子特有の生物的・心理的要因に求めることが通例であったが,近年,多くの国において,女子の犯罪の増加現象が見られるにつれ,その増加の原因を,女子の社会的地位,生活条件及び意識の変化など時代の変遷に伴う社会的諸条件の変化に求める議論が盛んになりつつある。我が国においては,古くから「犯罪の陰に女あり」と言われており,女子は多くの場合,男子犯罪の陰の存在として語られてきたが,最近の女子は,陰の存在から表舞台に登場してきたのであろうか。
 IV-1図は,昭和21年以降の交通関係業過(40年以前は業過。以下同じ。)を除く刑法犯検挙人員と女子の同検挙人員及び同検挙人員に占める女子の比率(以下「女子比」という。)の推移を示したものであり,IV-2図は,昭和21年以降の女子の交通関係業過を除く刑法犯検挙人員及び女子の同検挙人員に占める女子少年の比率(以下「女子少年比」という。)の推移を示したものである。
 女子の交通関係業過を除く刑法犯検挙人員は,昭和25年をピークとする第一波,39年をピークとする第二波及び58年をピークとする第三波に分けて概観することができる。
 第一波は,戦後の経済的及び社会的な混乱とその終息を背景とする昭和20年代の動きである。この時期は,生活秩序の乱れと困窮による犯罪が主流であり,窃盗,詐欺などの財産犯が多数を占めているが,女子比は低く,10%に満たない状況であった。第二波は,経済の高度成長に伴う都市化,産業化などを背景とする30年代から40年代にかけての動きであり,女子の窃盗が増加し,39年のピークをもたらしたものである。その後,女子の検挙人員は減少に転じたものの,この時期,男子の検挙人員が減少傾向にあり,その減少率は女子のそれを上回っていたため,女子比は,38年に10%台に達した後もゆるやかに上昇傾向を示している。第三波は,40年代後半以降増勢に転じ,58年に戦後最大を数えた後63年に再び小ピークを示しながら減少し現在に至る大きな動きである。特に50年代の豊かな社会における万引き等のいわゆる「遊び型非行」の動向が,女子刑法犯における第三波の形成に大きく寄与したものであり,この間に女子比は18%ないし20%に上昇し,女子少年比も上昇して,63年以降は5割を超えている。

IV-1図 交通関係業過を除く刑法犯検挙人員及び女子比の推移

IV-2図 交通関係業過を除く女子刑法犯検挙人員及び女子少年比の推移

 特別法犯においては,薬物犯罪の増加が男女共に著しいが,特に女子の覚せい剤取締法違反は,成人,少年を問わず暴力組織との関連及び売春あるいは性的逸脱行為との関連が強く,社会問題となっている。
 近年,女子の社会進出が著しく,時期を同じくして女子犯罪の増加が顕著なため,女子犯罪の増加は女子の社会進出と関連するかなどの議論がなされているが,果たしていかがであろうか。
 そこで,本編では,各種統計資料及び法務総合研究所の特別調査に基づいて,我が国における女子犯罪の動向,特質及び女子犯罪者の処遇の実態を明らかにするとともに,諸外国の女子犯罪の実情を検討し,女子犯罪者に対する処分や処遇上の問題点を検討することとした。