3 要約と課題 (1) 要 約 50歳以上の高年群受刑者について本節で解説したところを要約してみると,以下のとおりである。 [1] すべての罪名で,性行等においても,また,受刑に至った理由や自己意識においても,初入者と再入省の間で相当の質的差異が見られる。 [2] 業過において,初入者には,基本的な生活状況に著しい問題は認められない。 [3] 道路交通法違反において,初入者に飲酒習慣の関与が認められる。 [4] 殺人において,初入者に家族や異性を始めとする対人関係の問題が認められる。, [5] 窃盗において,初入者は,再大者ほどではないが全般的な生活状況に相当程度の問題が認められる。 [6] 詐欺において,初入者と再入者の間には質的な差が見られるほか,再入者は初入者に比べて,基本的な生活状況に相当の破たんが認められる。 [7] 覚せい剤取締法違反において,程度の差はあるが,初入者,再入者共に共通した特質として暴力団との関係が目立つ。 (2) 今後の課題 多数の50歳以上の高年群初入受刑者を対象とした実態・意識調査は,法務総合研究所の調査としても初めての試みであって,その調査結果によって,従来,高年群受刑者において圧倒的多数を占める累入受刑者の中にあって,ともすれば見落とされがちであった初入受刑者の特質が幾分なりとも明らかとなった。それらの結果は,既に経験的に指摘されてきたものも少なくないが,改めて確認できたことに意味があると考える。今後の受刑者,特に,年齢の高い受刑者の処遇をより効果的に行うための参考となろう。 今後更に分析・検討を要する課題には多くのものが残されているが,その一つに,年齢の高い受刑者について今回は検討できなかった類型別の比較考察がある。50歳以上の高年群受刑者あるいは60歳以上の高齢受刑者と一括して呼ばれる対象者にも多くの類型があり,その処遇の方法もまたおのずから異なるべきであると考えられる。例えば,早くから非行・犯罪を生じ,受刑を重ねながら加齢したいわゆる累犯者,ある時期に重大な罪を犯して長期刑を受け受刑中に加齢した者,早期から非行・犯罪を重ねていながら受刑までには至らず高齢に達してから初めて受刑した者,善良な市民として高齢に達した後に生活の破たん,人間関係のもつれ等を背景に罪を犯し初めて受刑に至った者,若年期に受刑経験があり出所後社会生活を送っていたが高齢に達して再度受刑した者など幾つかの類型が考えられ,これら受刑者の特質をそれぞれ明らかにすることによって,一層効果的な処遇方策を見いだすことができる。 その他,高年群受刑者の不安,特に,疾病や健康に係る問題あるいは帰住調整の問題の検討など,高年群受刑者の個別的処遇に資するために更に調査を尽くすべき課題は少なくない。今回の調査結果を土台に,一層幅広い調査を実施していくこととしたい。
|