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 平成 3年版 犯罪白書 第4編/第4章/第3節/3 

3 要  約

 初入及び再大者をそれぞれ含む若年,中年及び高年群受刑者,総計3,181人に対して実施した意識調査から得られた結果の概要は,以下のとおりであり,受刑者の効果的な分類処遇を行う上での参考となろう。
[1] 年齢意識については,60歳以上の高齢受刑者が一般高齢者に比べて低い年齢段階で老人と意識すること,再入受刑者が初入受刑者よりも低い年齢段階で老いを意識しやすいことなどから,高齢受刑者の年齢意識としては,一般高齢者よりも早期に老人期を迎えることがうかがわれ,特に,再入受刑者にその傾向が強い。

IV-65図 人生で一番楽しかった時期・つらかった時期

[2] 生活意識については,人間関係を見ると,年齢群を問わず,初入受刑者が,身近な者との関係を維持しているのに対して,再入受刑者では身近な者を含めて人間関係全般が希薄になることが分かり,特に,その程度は年齢の高い群ほど大きくなる傾向がうかがえた。また,大切にしている事項を見ると,50歳以上の高年群では,初入受刑者が「家族とのつながり」を最も大切にした上で「仕事」,「生活の安定」及び「健康づくり」をも重視するのに対して,再入受刑者は,「家族とのつながり」もさることながら「仕事」,「生活の安定」及び「健康づくり」により強い関心をもっている。
[3] 本件犯行の責任については,すべて又は大部分自分に責任があるとする者は50歳以上の高年群初入受刑者でほぼ9割に達し,他の受刑者では9割を超えている。また,年齢の高い群ほど自責の念が低下し,高年群では,初入受刑者が再入受刑者よりも自責の念がやや低く,自己弁解的である。
[4] 受刑に至った理由について,受刑者自身の意識に関していえば,彼らは,それぞれ特有な要因がはたらいて犯行に至ったと考えているが,特に,50歳以上の高年群受刑者の場合では,初入者,再入者共に,経済的困窮を理由とする者が少なくないことに加えて,アルコール,覚せい剤又はかけ事といったし癖・性癖が重要な意味をもっている。また,初入受刑者はだまされたとの意識が,再入受刑者では怠惰・遊興習慣が意識されている。
[5] 50歳以上の高年群受刑者がもつ出所後の不安については,経済,仕事及び健康が共通した基本的不安の源泉をなしており,これらは,いずれも再入受刑者において初入受刑者よりも強く感じられている。また,初人受刑者では前科や被害者との関係に不安を抱いているのと対照的に再入受刑者は被害者との関係よりも住居のことを優先して心配している。
[6] 50歳以上の高年群受刑者の老後の生活費については,初人受刑者が「年金や恩給などに頼る」,「自分の貯蓄や財産で暮らす」及び「子供に面倒をみてもらう」とする者が多いのに対して,再入受刑者は,「福祉の世話になる」,「当てがない」及び「分からない」とする者が多く,総じて,初入受刑者が老後の生計についての備えを整えているのに対して,再入受刑者は見通しをもたないか福祉に依存する考えをもっている。
なお,年金受給については,初入受刑者の約半数がもらえるとしているのに対して,再入受刑者では,もらえるとする者が2割強にすぎない。
[7] 受刑者の自己意識については,年齢の高い群ほど自信・自尊心及び連帯感が次第に減退し,また,刑務所への累入によって,自己否定的となり,落ご感を増大させ,加齢及び受刑生活を重ねることによって再起意欲や対人信頼感を失い,孤立・閉鎖的構えを身につけてゆく。