本節においては,我が国の犯罪動向の特徴を見るために,入手し得た公的資料の範囲内で,諸外国の犯罪の動向について概観する。
今回比較対象国として選定したのは,アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。),連合王国(ただし,イングランド及びウェールズに限る。以下「イギリス」という。),ドイツ連邦共和国(ただし,1990年10月3日のドイツ民主共和国の編入前は,ドイツ民主共和国編入前のドイツ連邦共和国をいう。以下「ドイツ」という。),フランス共和国(以下「フランス」という。)及び大韓民国(以下「韓国」という。)の5か国である。
我が国と,これら5か国の主要な犯罪の認知件数の合計,人口10万人当たりの主要な犯罪の認知件数の比率(発生率)及び認知件数に占める検挙件数の比率(検挙率)を対比するとともに,最も重大な犯罪である殺人罪と最も一般的な犯罪である窃盗罪の認知件数,発生率及び検挙率を比較してみることとする。
言うまでもなく,我が国とこれら各国においては,それぞれ犯罪とされるものの範囲や犯罪構成要件を異にし,また,統計の取り方も同一ではないため,正確な比較は困難であるが,我が国の犯罪動向の一応の位置付けをするために,各国の犯罪動向を概括的に把握するとともに,我が国と各国の統計数値を比較することは,なお有益であると考える。
I-8図は,1980年から1989年までの10年間(韓国については,統計上交通関係業過を分離できる1982年から1989年までの8年間)について,各国の公的資料に掲載された主要な犯罪の認知件数の合計数の推移を見たものである。
1980年(韓国は1982年)の認知件数を100とする指数で1989年の認知件数を見ると,イギリスが147,フランスが124,我が国が123,ドイツが114,アメリカが106,韓国が96となっている。
I-8図 主要な犯罪の認知件数の推移(1980年〜1989年)
I-9図は,1988年と1989年の各国の主要な犯罪の発生率及び検挙率を見たものである。これらの統計数値によれば,我が国の発生率は,アメリカ,イギリス,ドイツ及びフランスのそれよりは低いが,韓国のそれよりはやや高くなっており,我が国の検挙率は,1989年においては,アメリカ,イギリス及びフランスのそれよりは高い水準にあるといえるが,ドイツ及び韓国の検挙率よりは低くなっている。
I-9図 主要な犯罪の発生率及び検挙率(1988年,1989年)
I-17表 殺人事犯の認知件数・発生率及び検挙率(1987年〜1989年)
I-I8表 窃盗事犯の認知件数・発生率及び検挙率(1987年〜1989年)
I-17表は,1987年から1989年までの3年間における各国の殺人罪の認知件数,発生率及び検挙率を見たものである。各国によって殺人罪の構成要件に多少の差異があるが,この罪名を前提として統計数値を見る限り,我が国は,その発生率において,他の5か国よりは低くなっており,その検挙率において,1988年及び1989年には韓国よりやや低くなっているが,それ以外では,他の5か国より高くなっている。
I-18表は,1987年から1989年までの3年間における各国の窃盗罪の認知件数,発生率及び検挙率を見たものである。窃盗罪については暗数が少なくないが,これらの数値を単純に比較する限りにおいては,我が国は,その発生率において,アメリカ,イギリス,ドイツ及びフランスのそれよりかなり低く,韓国のそれよりは高くなっており,その検挙率において,1987年には韓国よりやや低くなっているが,それ以外では,他の5か国より高くなっている。