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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第3章/第2節/2 

2 特別調査から見た再犯状況

(1) 調査の概要
 法務総合研究所では,非行を繰り返す少年の実態を明らかにするために,少年鑑別所収容少年を対象とした,成り行き調査を実施した。これは,全国の少年鑑別所に初めて入所し,昭和61年中に退所した少年のうち,資質鑑別を終了した14歳以上18歳未満の少年全員8,552人(男子6,822人,女子1,730人,以下「調査対象少年」という。)について,少年鑑別所を退所してから平成元年12月末日までの間に,再び少年鑑別所に入所したかどうかを調査したものである。なお,成人に達した者は原則として少年鑑別所に収容されることがないため,調査対象少年を18歳未満の者に限定し,成り行き調査の追跡期間を最低でも2年間以上確保することとした。
 本節では,成り行き調査によって少年鑑別所に再入所したことが確認された少年(以下「再入少年」という。)と再入所しなかった少年(以下「非再入少年」という。)を比較して,非行の特徴,非行歴,環境条件等について見ていくこととする。
(2) 男女別及び年齢と成り行き
 III-43表は,男女別,年齢別に調査対象少年の成り行きを見たものである。調査対象少年8,552人の中で,成り行き調査によって少年鑑別所に再入所したことが確認された少年は2,892人(男子2,509人,女子383人)である。総数に占める再入少年の比率(以下「再入率」という。)は33.8%であり,約3分の1の少年が再入所している。男女別では,男子が36.8%,女子が22.1%であり,男子の再入率が高くなっている。

III-43表 調査対象少年の男女・年齢・成り行き別人員(平成元年12月31日現在)

 再入率を年齢別に見ると,少年鑑別所に初めて入所した時(以下「初人時」という。)の年齢が14歳の者が44.0%,15歳が37.2%,16歳が35.8%,17歳が25.2%であり,初人時14歳の者の再入率が特に高い。
 再入少年の少年鑑別所入所回数別の内訳は,男子では,2回(再入所回数は1回)が総数の28.5%,3回が同6.2%,4回以上が同2.1%であり,女子では,それぞれ19.5%,1.8%,0.8%である。なお,再入少年の中で,入所回数が3回以上の者は21.2%(男子22.6%,女子11.7%)である。
(3) 再入所までの期間
 III-18図は,初人の際に不処分,保護観察又は試験観察となった者2,094人(男子1,796人,女子298人)について,初入時の少年鑑別所退所から再入所までの期間を見たものである。本表では,再入所までの期間別の構成比を累積率(各期間までに再入所した者の累計が再入少年全体に占める比率)で示してある。男子では,6か月以内に32.3%の者が再入所しており,1年以内に55.8%,1年6か月以内に73.2%,2年以内に84.4%の者が再入所している。女子では,3か月以内に32.2%,6か月以内に51.0%,1年以内に73.8%,1年6か月以内に84.2%の者が再入所している。累積率が50%を超えて,半数以上が再入所するまでの期間は,男子が1年,女子が6か月であり,また,1年を過ぎてから再入所した者は,男子が44.2%,女子が26.2%である。

III-18図 少年鑑別所再入少年の再入までの期間の累積率(在宅処遇少年)(平成元年12月318現在)

 少年鑑別所を退所してから再入所までの期間は,女子の場合が短く,3か月以内に3分の1, 6か月以内に半数の者が再非行に陥っている。社会内処遇を開始してから,初めの6か月間の指導が特に重要であると見られる。一方,男子については,1年を過ぎてからの再入者がかなりあり,指導を長期間継続することが必要であることを示唆している。
(4) 非行名と成り行き
ア 非行名と再入率
 非行名によって再犯者の占める割合が大きく異なることは,先に概説で述べたとおりであるが,少年鑑別所初入時の非行が,その後の再非行とどのような関係があるのであろうか。まず,非行名によって再入率に違いがあるかどうかを見てみよう。
 III-44表は,初入時の非行名別に再入者の人員と再入率を示したものである。男子では,絶対数の少ない売春防止法違反を除くと,虞犯(50.9%),毒物及び劇物取締法違反(50.3%)及び詐欺・横領(47.1%)の再入率が特に高い。これらの非行で少年鑑別所に初めて入所した少年の半数前後が再入所していることになる。このほか,自動車盗(42.1%),銃砲刀剣類所持等取締法違反(41.7%),自動車盗以外の窃盗(38.2%),恐喝(37.6%)などの再入率も,男子の平均再入率(36.8%)より高くなっている。女子では,絶対数の少ない放火,殺人等を除くと,毒物及び劇物取締法違反(26.0%)が最も高く,恐喝(25.9%),虞犯(24.8%)の順となっている。女子の平均再入率は22.1%である。一方,再入率が比較的低い非行名は,男子では,殺人(9.5%),強姦(17.4%),強盗(22.5%),強制猥褻(23.7%)などであり,女子では,自動車盗(5.9%),強盗(6.3%),暴力行為等処罰法違反(10.0%),傷害(10.9%)などである。

III-44表 調査対象少年の男女・非行名・成り行き別人員(平成元年12月31日現在)

 以上のように,少年鑑別所初入時の非行名によって,再入率に大きな差異が認められた。毒物及び劇物取締法違反,恐喝及び虞犯は,男女共に再入率の高い非行であり,自動車盗は,男子では再入率が高いが,女子では再入率の低い非行である。先に述べたように,強盗,強姦,殺人,恐喝などの凶悪,粗暴な非行を犯す少年には,過去に非行歴のある再犯者が多いのであるが,再入率で見ると,凶悪,粗暴な非行で少年鑑別所に入所した少年の中で,再び非行を犯して少年鑑別所に再入所する者の割合は必ずしも高くないといえる。
イ 非行の推移
 次に,非行を繰り返す過程で非行の方向がどのように変わっていくのか,非行の推移を見てみよう。
 III-45表は,調査対象少年について,非再入少年,再入少年別に,初入時と2回目の入所時(以下「2人時」という。)及び3回目の入所時(以下「3人時」という。)における非行種別の構成比を示したものである。まず,男子について初人時の非行種別を見ると,再入少年は,非再入少年と比べて,窃盗,薬物事犯及び虞犯の比率が高く,粗暴犯,凶悪犯,性犯罪及び交通事犯の割合が低い。3回以上入所した再入少年の初人時を見ると,窃盗及び虞犯の比率が更に高く,粗暴犯,凶悪犯及び交通事犯の比率が更に低くなっている。そこで,再入少年の初人時,2人時及び3人時における非行種別構成比の変化を見ると,初人時に比べて2人時に上昇するのが窃盗,交通事犯及び薬物事犯であり,低下するのが粗暴犯と虞犯である。3人時になると,薬物事犯の割合が更に高くなっている。
 一方,女子については,再入少年は,非再入少年と比べて,初人時の虞犯の比率が特に高いが,2人時になると,初人時と比べて虞犯の比率が下がり,薬物事犯の比率が上昇し,窃盗も若干高くなっている(3人以上の少年では2人時の窃盗の比率は下がる。)。3人時になると,虞犯の比率が更に下がり,薬物事犯,粗暴犯及び窃盗の比率が大幅に上昇している。

III-45表 調査対象少年の再入・非再入,非行種別構成比(平成元年12月31日現在)

 このように,再入少年が非行を繰り返す過程で明確に現れる変化は,虞犯が減少して薬物事犯が増加することであり,これは男女に共通して認められる。なお,男子の凶悪犯の比率が,極めてわずかな数値ではあるが,初入時(1.4%),2入時(1.8%),3入時(1.9%)と上昇していることが注目される。
ウ 初入時と再入時の非行の関係
 初入時と2人時の非行種別の構成比が近似していても,同じ少年が同じ種別の非行を繰り返し行うものとは限らない。再入少年について,初入時と2入時の非行種別の関係を見たものが,III-46表である。男子では,初入時が窃盗の少年のうち,2人時も窃盗である者は59.6%であり,窃盗については同じ非行を繰り返す者の割合が高い。このほか,初入時と2人時の非行種別が同じである者の比率は,薬物事犯で39.1%,粗暴犯で34.5%,交通事犯で29.3%,虞犯で29.1%,性犯罪で11.1%,凶悪犯で5.6%である。また,女子の同種非行の割合は,絶対数の少ない凶悪犯を除くと,虞犯で66.3%,薬物事犯で50.0%,窃盗で36.1%,粗暴犯で34.4%となっている。
 一方,初入時と2人時との非行種別が異なる場合について見ると,男子では,2入時において窃盗に変わる者が多く,初入時における凶悪犯の50.0%,性犯罪の42.2%,虞犯の34.7%,粗暴犯の27.3%,交通事犯の24.4%,薬物事犯の20.5%が,それぞれ2入時には窃盗に移行している。女子では,2入時には虞犯に変わる者が多く,初人時が窃盗の38.9%,薬物事犯の30.0%,粗暴犯の21.9%が,それぞれ虞犯に移行している。
 このように,再入少年の非行の成り行きを見ると,同じ種類の非行を反復する者がある反面,異なる種類の非行を行う者が多く見られる。ちなみに,初入時と2人時の非行種別の関係な再入少年全体で見ると,初入時と2人時が同種の非行である者は約4割,異種の非行である者は約6割となっている。非行の方向が一定せず,種々の非行を犯すなど,広い範囲の非行を行う者が多いことが少年非行の特徴の一つといえよう。

III-46表 少年鑑別所再入少年の初入時と2人時の非行種b別の関係(平成元年12月31日現在)

(5) 再入少年の特性
 再入少年には,どのような特徴が見られるであろうか。以下では,再入少年の特性を非再入少年と比較しながら見ていくが,あわせて,非行態様,非行歴,家庭環境等による再入率の違いについても述べることとする。
ア 初入時の非行の態様
 III-47表は,再入少年と非再入少年の特性を,共犯者数など,5項目について見たものである。まず,初入時の非行の態様を共犯者数の面から見ると,再入少年には単独犯が多く(男子再入少年30.5%,同非再入少年27.4%,女子再入少年25.7%,同非再入少年16.7%),共犯者数が4人以上・不特定多数の者は少ない(男子再入少年29.6%,同非再入少年36.1%,女子再入少年22.2%,同非再入少年32.3%)。
 また,III-19図により,共犯者との関係における本人の役割と再入率との関係を見ると,男女共に単独犯の再入率が高い(再入率は,男子37.8%,同女子26.1%)が,役割別に見ると,男子では「主導」(同39.6%),「共同」(同35.2%),「雷同」(同33.1%),「従属」(同26.4%)の順に再入牢が高い。女子では,共犯者のある者は全般に再入牢が低いが,男子とほぼ同様に,「主導」(同19.2%),「共同」(同17.6%),「従属」(同15.4%),「雷同」(同15.0%)の順に再入率が高くなっている。初入時の非行において,非行への関与の度合いが強い者ほど,再入率が高くなるといえる。
イ 非行歴
 まず,初発非行年齢について見ると(III-47表),12歳までに初発非行があった者は,再入少年に多く(男子再入少年27.9%,同非再入少年18.6%,女子再入少年17.3%,同非再入少年11.9%),男女共に,再入少年は非再入少年より初発非行年齢が低い者が多い。
 III-20図により,初発非行年齢と再入率との関係を見ると,初発非行年齢が10歳未満である者の再入率が特に高く(再入率は男子57.0%,同女子58.3%),10歳(同男子47.7%,同女子32.5%),11歳(同男子43.4%,同女子31.7%)の再入率も高い。女子の12歳の場合を除けば,男女共に初発非行年齢が低い者ほど再入率が高くなっており,早発型の非行少年の成り行きが不良であることを示している。

III-47表 再入少年と非再入少年の初人時の共犯者数,初発非行年齢,不良集団関係,保護者及び父親の養育態度別構成比(平成元年12月31日現在)

III-19図 初入時における共犯者関係の役割別再入率(平成元年12月31日現在)

III-20図 初発非行年齢別再入率(平成元年12月31日現在)

III-21図 初入時における問題行動歴別再入率(平成元年12月31日現在)

 次に,III-21図により,初入時に認められた問題行動歴と再入率との関係を見ると,男女共に家出の常習者及び万引きの常習者の再入率が高い。男子では再入率がいずれも50%を超し,家出,万引きの常習者の半数以上が再入所している。また,男子ではシンナー等有機溶剤の常習的な濫用者の再入率も44.6%と高くなっている。
ウ 不良集団との関係
 初入時における不良集団との関係について見ると(III-47表),再入少年は不良集団に関係している者が多い(男子再入少年54.9%,同非再入少年47.9%,女子再入少年47.5%,同非再入少年40.0%)。ただし,男子では暴走族,女子では暴力組織に関係している者は,非再入少年に多い。暴走族の男子は,初入時の非行の約6割が道路交通法違反であり,非行の態様も7割以上が5人以上・不特定多数の共犯者による共同的又は雷同的な犯行で,非行性の進んでいる者は比較的少ないものと見られる。暴力組織に関係している女子は,友人,知人の中に暴力団関係者がいてその影響を受けているという程度のかかわりが多く,暴力組織に主体的に関係している者は少ないと見られる。また,年齢の高い者が多く(17歳が43.8%),非再入少年の大半が17歳の者である。16歳以下の者に限れば,暴力組織に関係している女子は再入少年に多くなる。
 III-22図により,初入時の不良集団とのかかわりと再入率との関係を見ると,男女共に不良集団に関係している者の再入率が高く,暴力組織と関係のある男子では,再入率が45.4%と特に高くなる。また,暴走族と関係のある者は,女子では再入率が高くなるが,男子では不良集団との関係がない者よりも再入率が低くなっている。

III-22図 初入時における不良集団関係別再入率(平成元年12月31日現在)

エ 保護者
 初入時における保護者の状況について見ると(III-47表),男子の再入少年には,非再入少年に比べて,実父母がそろっている者が少なく(再入少年49.9%,非再入少年56.9%),実父のみが多い(再入少年14.0%,非再入少年10.7%)。女子の再入少年では,実父母率は非再入少年とほとんど変わらない(再入少年44.4%,非再入少年45.3%)が,義父母(再入少年2.9%,非再入少年1.6%)及び義父実母(再入少年8.1%,非再入少年5.6%)が多い。
 III-23図により,初人時における保護者の状況と再入率の関係を見ると,男子では,保護者が実父母である場合の再入率が低く(再入率33.7%),実父のみ(同43.2%),義父母(同45.5%),実父義母(同43.3%)及び義父実母(同41.7%)である場合の再入率が高くなる。女子については,男子と異なり,保護者が実父のみ(同20.4%)と実父義母(同22.0%)の場合の再入率は高くはない。女子では,義父母(同34.4%)及び義父実母(同29.0%)の再入率が高くなる。

III-23図 初入時における保護者別再入率(平成元年12月31日現在)

オ 親の養育態度
 父親の養育態度について見ると(III-47表),男子では,再入少年は非再入少年と比較して,「普通」(再入少年13.0%,非再入少年19.8%),「溺愛」(再入少年2.8%,非再入少年3.6%)である場合が少なく,「放任」(再入少年40.1%,非再入少年36.7%),「拒否」(再入少年3.5%,非再入少年2.2%),「一貫性なし」(再入少年12,5%,非再入少年10.0%)が多い。女子についても,同様のことがいえる。
 III-24図により,父親の養育態度と再入率との関係を見ると,再入率が高いのは,男子では,父親の養育態度が「拒否」(再入率47.8%),「一貫性なし」(同42.0%),「放任」(同38.8%)である場合である。なお,母親の養育態度についても,「拒否」(同41.5%)が父親の場合よりも低くなるほかは,ほぼ同様の再入率の表れ方をしている。また,女子についても,父親の養育態度と再入率の関係は,男子の場合とほとんど同じであるが,母親の養育態度では,「拒否」(同28.6%),「一貫性なし」(同26.3%),「厳格」(同24.0%)の順に再入率が高くなっている。一方,父親又は母親の養育態度が「普通」,「期待過剰」,「溺愛」などでは再入率が比較的低い。親の養育態度に示される,成育過程における親子関係の信頼度や心的交流の程度が,非行の深刻化を左右するものであることがうかがえる。

III-24図 初入時における父親の養育態度別再入牢(平成元年12月31日現在)

(6) 行動観察と成り行き
 少年鑑別所では,所内における少年の日常の生活を観察して,鑑別に必要な情報の収集を行っている。この行動観察の結果は,所内適応水準,他少年との協調性,規則・指示に対する遵守性,内省度等の項目に分けて,それぞれの程度を段階評定されている。III-25図は,初入時の行動観察の評定結果と成り行きとの関係を見たものである。男子では,いずれの項目についても,「良」と評定された者の再入率が30%前後であるのに対して,「不良」と評定された者の再入率が47.1%から48.1%の高率となっている。女子についても,同様の結果を示しており,初入時の少年鑑別所内の少年の生活態度が,成り行きと密接な関係があることがわかる。評定結果が好ましくない者ほど再入率が高くなっており,所内生活の良・不良がそのまま退所後の成り行きを予見しているといえる。

III-25図 初入時における在所中の行動観察別再入率(平成元年12月31日現在)