我が国の人口構成の高齢化には，著しいものがある。I-56表は，高齢者(通常65歳以上の者をいうことが多いが，本節では統計上の制約から60歳以上の者をいう。)の人口の推移を示したものであるが，高齢者数は，一貫して増加し続けており，総務庁の推計人口によると，平成元年では約2,088万人で，総人口に対する高齢者の比率は，16.9%となっている。これを30年前の約805万人(8.7%)に比べると，高齢者数で2.6倍，総人口に対する高齢者比で8.2ポイント増，10年前の約1,463万人(12.6%)と比べると，高齢者数で1.4倍，総人口に対する高齢者比で4.3ポイント増となっている。また，男女別の高齢者数を見ると，男子が約887万人(高齢者比14.6%)，女子が約1,201万人(同19.2%)で，女子の方が人口にして約314万人，高齢者比にして4.6ポイント高くなっている。

I-56表　高齢者人口の推移(昭和34年，44年，54年，59年，平成元年)

　こうした人口構成の高齢化に対応して，近年，様々な分野において，定年の延長，雇用の促進などを始めとして，高齢者の能力に応じた職業を開拓したり，社会的活動に参加する機会を確保するための諸施策が進められている。総務庁統計局の「労働力調査年報」によると，60歳以上の高齢就業者数は，平成元年の推計では約676万人で，10年前の約501万人に比べて1.3倍になっているほか，警察庁交通局の調査によると，60歳以上の免許保有者数も年々増加し，元年末現在では519万2,280人で，10年前の177万7,348人に比べ2.9倍となっているなど，第二，第三の人生で社会的な活動を続ける高齢者が多くなっていることがうかがわれる。そこで，本節では，高齢者による犯罪の動向と，刑事手続及び処遇の各段階における高齢犯罪者に対する処遇の実情を，概観することとする。なお，以下で用いる高齢者比とは，検挙人員及び刑事手続と処遇の各段階の対象者中に占める高齢者の割合をいう。