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 平成 元年版 犯罪白書 第3編/第2章/第3節/2 

2 鑑  別

 III-9図は,観護措置による被収容少年に対する標準的な鑑別の流れを示したものである。観護措置による収容の期間は最長4週間と定められており,この期間に鑑別に必要な処遇と調査が行われる。
 少年鑑別所における処遇は,少年を明るく静かな環境におき,少年が安んじて審判を受けられるようにし,そのありのままの姿をとらえて資質の鑑別に役立てている。このため,少年の身柄の確保,心情の安定を図るほか,生活管理上必要な処遇を行いながら,行動観察を通じて鑑別に必要な情報の収集を行っている。特に近年,観護措置による被収容少年の精密な鑑別に役立てるため,処遇の一環として「探索処遇」を試行している。これは,個々の被収容少年の特性を考慮しつつ,作文,読書,はり絵,粘土細工,心理劇,集団討議等の処遇を実施して,少年の問題性,改善可能性の程度に応じた改善更生のための方法等を探り,鑑別に反映させようとするものである。
 鑑別のための調査は,面接,心理検査,精神及び身体医学的検査,行動観察,生育史・環境資料によるほか,上記の探索処遇等の方法によって行われる。これらの調査結果を基に,少年の資質と非行性との関連,問題点の所在,処遇上の指針等について記載した「鑑別結果通知書」が作成され,審判の資料として家庭裁判所へ送付される。また,鑑別の結果は,「少年簿」に記載され,保護処分の決定がなされた場合,その処分の執行に資するため,少年院,保護観察所等へ送付される。

III-9図 少年鑑別所における収容鑑別対象少年の鑑別の流れ

 少年鑑別所では,被収容少年以外に,在宅のまま家庭裁判所に事件が係属している少年,少年院,地方更生保護委員会,保護観察所,検察庁のほか,一般家庭や学校等から依頼を受けた少年に対しても鑑別を行っている。このように,少年鑑別所は,他の矯正施設と異なって,身柄の収容を伴わない対象者に対して鑑別を行うという機能も有しており,広く非行防止に寄与している。
 昭和63年における少年鑑別所の鑑別受付人員は,III-25表のとおり4万9,835人であり,前年に比べて2,720人,5.8%増加している。鑑別受付人員の内訳では,収容鑑別が総数の42.5%で最も多いが,交通事犯(主たる非行が自動車又は原動機付自転車の運転に係るものをいう。)に限ってみると,保護関係機関からの依頼が53.8%を占めている。なお,63年における一般少年鑑別は1万9,482人で,前年と比べて3,423人,21.3%増加し,在宅鑑別は1,717人であり,前年に比べて71人,4.0%減少した。
 III-26表は,昭和63年における家庭裁判所関係の鑑別判定終了少年1万8,037人について,その鑑別判定と審判決定との関係を見たものである。鑑別判定を見ると,「在宅保護相当」と判定された者と「少年院送致相当」と判定された者が48.8%,46.2%とそれぞれ半数近くを占め,「検察官送致相当」と「教護院・養護施設送致相当」と判定された者が,それぞれ1.8%,2.3%となっている。判定と決定との関係を見ると,「在宅保護相当」と判定された者の69.0%が保護観察に付されているが,15.3%は決定保留のまま家庭裁判所調査官の試験観察に付されている。また,「少年院送致相当」と判定された者の54.3%は少年院に送致されているが,20.3%は保護観察に付され,18.8%は試験観察に付されている。このことから,「在宅保護相当」と判定された者の多くは在宅のまま処遇されることが多いが,「少年院送致相当」と判定された者の半数近くは,判定と異なって,在宅のまま処遇されていることが分かる。

III-25表 鑑別受付人員(昭和61年〜63年)

 少年院送致の決定を受けた少年に対しては,まず,家庭裁判所が,送致する少年院の種別(初等,中等,特別及び医療)を指定し,少年鑑別所長が矯正管区長の定めた収容区分に従って具体的な送致少年院の指定を行う。もっとも,家庭裁判所が少年院送致の決定に当たって,短期処遇(本章第4節1(1)参照)を行うことが適当である旨の処遇勧告を行った場合には,短期処遇を行う少年院に収容することとされている。

III-26表 鑑別判定と審判決定との関係(昭和63年)