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特別法犯のうちで,最近とくに一般の注目をひいているのに,選挙犯罪,交通犯罪および麻薬犯罪がある。これらについては,別に章をあらためて詳述することとし,その他の特別法犯について,昭和三五年の統計を中心にしてきわめる概括的な説明を加えるにとどめることにする。
まず,特別法犯全般について,主要罪種別に検察庁の新受・処理別の統計を掲げるとI-22表のとおりである。これによると,交通犯罪が数的には圧倒的に多く,道交違反は二五七万余に達し,刑法犯および特別法犯の総数の七五・五%を占めている。道交違反は今後ますます増加する見通しであり,したがってこの処理をめぐって警察,検察,裁判に与える影響はきわめて大きいものとなろう。選挙犯罪は,四万弱であって,国会議員選挙関係の違反がその大部分である。これは,昭和三五年一〇月に衆議院が解散され,同年一一月二〇日に行なわれた衆議浣議員の総選挙に関するものである。これに次いで数的に多いのは,外国人登録法違反と出入国管理令違反の二万余である。この大部分は,朝鮮人の外国人登録証明書に間する違反である。 I-22表 特殊犯罪の主要罪種別検察庁受理・処理人員等(昭和35年) 次に道交関係,麻薬関係等をのぞいて,昭和三五年までの増減の状況を概観すると,まず,最も増減の著しいのは,食糧管理法違反(以下食管違反とよぶ)であって,昭和三五年は,前年の半数以下であり,昭和三四年もその前年のほぼ半数である。戦後のインフレが進行し,わが国の経済秩序が混乱した昭和二一年から昭和二三年までと,まだその影響が残されていた昭和二四年には,経済犯罪が特別法犯のうちで主たる地位を占め,数的には道交違反より多かったのである。そして,この経済犯罪の中心をなすものが食管違反であった。しかし,その後食管違反を初めとし各種の経済犯罪は次第に減少し,昭和三一年以降は激減したのである。これは,わが国の経済状態が好転したために,一般に統制法令にふれる行為が少なくなったこと等によるものである。物価統制令違反の昭和三五年の新受人員は,昭和三四年と比較して大差はないが,昭和三三年と比較すれば,そのほぼ半数に近く,最も低い水準にあるといえる。売春防止法は,昭和三三年四月から施行された画期的な立法であり,施行後間もないので,若干内容的な考察をすることにする。I-23表は,売春防止法違反の検察庁の新受および通常第一審手続の有罪人員別を昭和三四,三五年についてみたものであるが,これによると,昭和三五年の検察庁の新受人員は,一六,三四四人であって,昭和三四年に比して二,三八九人の減少となっている。これを内容的にみると,売春婦による勧誘関係が最も多く,新受人員総数の七三・一%を占め,これに次ぐものは,周旋等の一三・三%,場所提供の八・五%である。最も悪質な違反とされている「売春をさせることを業とする」違反,すなわち管理売春は,三・四%でその数は少ない。昭和三四年もほぼこれと同じような構成であるが,いずれも昭和三五年には減少をみせている。しかし,この統計面の減少が実際の犯罪の減少を意味しているかどうか疑問がないわけではない。元来,売春関係の犯罪は,検挙が困難であって,その統計にも暗数の多いことは世界共通の現象であり,しかも,わが国ではこの法律施行前までは,売春の周旋,管理売春等が全国各地でなかば公然と行なわれていたからである。これらの行為は,売春防止法施行後は,一応社会の表面から姿を消したが,これが短期間にただちに激減したかどうかは速断を許さないものがある。すなわち,売春関係の犯罪は仮りに増加しても,犯行の手口,手段が巧妙化して取締をまぬかれているとすれば,潜在化して統計面にあらわれず,暗数が増加することとなる。したがって,昭和三五年に売春関係の犯罪が実際に減少したかどうかは,なお十分な検討を要するものといえよう。 I-23表 売春防止法違反の法条別検察庁新受・通常第一審有罪・不起訴人員等(昭和34,35年) 売春関係犯罪の通常第一審手続の有罪人員の統計によると,有罪人員は,昭和三五年には二,八〇〇人で前年に比して二四四人の増加をみているが,これには略式命令による罰金刑の人員が加わっていないから,これを加えると,全有罪人員は減少している。通常第一審の有罪人員が増加したのは懲役刑に処せられる者が多くなったためである。もっとも,そのうちの大部分,すなわち七二・一%は,刑の執行猶予となっているが,昭和三四年に比較すると,刑の執行猶予に付された者のうちで補導処分または保護観察処分に付せられるものが増加している。このことは,売春防止法の運用が次第に軌道に乗ってきたことを物語るものといえよう。また,懲役の実刑を言い渡される比率は,昭和三四年に比して昭和三五年が増加しており,科刑は漸次きびしくなっているといえるが,この種の犯罪のうち,最も悪質とされている前記の管理売春について,懲役刑を言い渡されるもののうち約八〇%が刑の執行猶予に付されていることは注意を要するところである。 |