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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第6章/第1節 

第6章 むすび

第1節 概  説

 16世紀のカロリナ法典の窃盗累犯に関する加重処罰規定にさかのぼるまでもなく,古くから,犯罪を繰り返す者には,刑罰その他犯罪対策の上で特別な考慮が払われてきた。
 累犯者は,犯罪を犯す頻度が高く,市民に多大の脅威と被害を与えているが,犯罪傾向が進んでいるため,その再犯防止と社会復帰は相当困難な問題である。したがって,累犯者の実態を解明し,これに対する効果的な処遇方法と再犯防止対策を樹立することに成功すれば,社会の治安情勢は更に著しく好転することとなるであろう。
 このように,累犯対策は,刑事政策上の重要課題であり,第二次大戦後に限っても,1950年にハーグで開かれた第12回国際刑法及び刑務会議,1955年にロンドンで行われた第3回国際犯罪学会議,1965年にストックホルムで開催された第3回国連犯罪防止及び犯罪者処遇会議等で論議された。また,1980年にカラカスで開かれた第6回同会議において「矯正の非施設化とこれが残余の受刑者に及ぼす影響」の議題の下で累犯問題も論議され,その結果,矯正処遇の非施設化を大幅に進めるとしても,なお施設に拘束しておかなければならない受刑者が存在するのであり,特に,累犯者,常習犯罪者,危険な犯罪者等に対する特別の注意が払われなければならないとの勧告が採択されている。
 最近の我が国の累犯状況については,例えば,刑法犯の通常第一審有罪人員中に占める刑法上の累犯の比率は,横ばい状態で推移しており,また,累犯者中の若年層の者が減少傾向にあるなど,さほど憂慮すべき状況にはないと言える(第2章第1節参照)。これは,我が国の社会的・経済的な発展の下で国民の生活環境等の諸条件が向上したことのほか,刑事司法関係諸機関が犯罪防止と犯罪者処遇に有効に機能してきた成果でもあろう。ただ,新受刑者総数中に占める刑務所入所6度以上の者の人員と比率が増えていることに示されるように,多数回の前科・受刑歴を有する者や中高年層の者が増加しているなど楽観を許さない点もある。
 このような背景から,本白書では,現在の累犯状況を概観した上,特に,電算化犯歴の資料を利用して,世界でも初めての試みと言ってよいほど,累犯者の中でも一層犯罪傾向の進んだ多数回前科者等の実態を詳細かつ総合的に分析し,これに対する科刑や処遇状況を考察した。
 今回の調査・研究の結果により,最近の多数回前科者等の実態や対策を概観すると,以下述べるような特徴や問題点を指摘することができよう。