前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第5章/第3節/3 

3 更生保護会への委託保護の概要

(1) 入会理由
 多数回受刑歴を有する者の更生保護会への入会理由(複数回答)は,回答数の多い順に,[1]「頼るべき親族なし」435人(55.4%),[2]「親族が引受けを拒否」181人(23.1%),[3]「本人が親族との同居を望まず」146人(18.6%),[4]「生活訓練のため」49人(6.2%)となっており,その他の理由による者(理由不明の者を含む。)は74人(9.4%)であった。ちなみに,保護統計年報の掲げる昭和61年中に更生保護会を退会した者全員(以下「全対象者」という。)3,421人に対する調査(択一回答)では,[1]「頼るべき親族なし」1,828人(53.4%),[2]「本人が親族との同居を望まず」858人(25.1%),[3]「親族が引受けを拒否」517人(15.1%),[4]「生活訓練のため」161人(4.7%)となっており,その他の理由による者は57人(1.7%)であった。調査の方法を異にするので,厳密な対照はできないのであるが,構成比の高い順位を見ると,両者共に,頼るべき親族のない者が,第一順位で過半数を占めているのを始めとし,総じて家族との関係に問題があることが示されているが,第二順位は,多数回受刑歴を有する者では親族が引受けを拒否した者であり,全対象者では本人が親族と同居を望まない者となっている。
(2) 宿泊保護日数
 多数回受刑歴を有する者の更生保護会における宿泊保護日数は,5日以内の者166人(21.1%),5日を超え10日以内の者94人(12.0%),10日を超え20日以内の者125人(15.9%),20日を超え1月以内の者89人(11.3%),1月を超え3月以内の者217人(27.6%),3月を超える者94人(12.0%)であった。
(3) 就職状況
 更生保護会に入会した者は,更生保護会の職員の指導の下に,職を得,生計の途をたて,社会復帰の努力をしなければならない。多数回受刑歴を有する者で更生保護会に在会中に就職したもの550人について,その最初の職についての就職経路を見ると,更生保護会職員の援助によるもの383人(69.6%),就職雑誌等で被保護者自身で見付けたもの52人(9.5%),公共職業安定所の紹介によるもの42人(7.6%),友人・知人の紹介によるもの23人(4.2%),親族の紹介によるもの3人(0.5%),その他12人(2.2%),就職経路の不明のもの35人(6.4%)となっている。
(4) 被保護者の問題点
 更生保護会で保護された多数回受刑歴を有する者のもつ問題点(複数回答)については,勤労意欲が乏しい263人(33.5%),飲酒たんでき196人(25.0%),対人関係がうまくいかない135人(17.2%),病弱97人(12.4%),その他168人(21.4%)という結果であり,とりたてて問題点が認められない者は239人(30.4%)であった。
(5) 更生保護会委託終了事由
 多数回受刑歴を有する者の更生保護会委託終了事由を見ると,円満退会507人(64.6%),勧告退会51人(6.5%),無断退会109人(13.9%),事故退会33人(4.2%),任意保護等への種別異動51人(6.5%)及びその他34人(4.3%)となっている。円満退会者507人と事故等による退会者(勧告退会,無断退会及び事故退会をいう。)193人との合計人員700人中に占める両者の各比率を見ると,円満退会者72.4%,事故等による退会者27.6%となっている。ちなみに,全対象者中におけるその比率は,円満退会者77.9%,事故等による退会者22.1%となっており,これと比較すると,多数回受刑者の方が,事故等による退会者の比率が5.5ポイント高い。
(6) 退会先
 更生保護会を退会した多数回受刑歴を有する者のうち,退会時の申出等により退会先が把握されたものは500人で,その退会先は,就職先が156人(31.2%),配偶者や父母兄弟などの親族のもとが107人(21.4%),下宿・借家等が69人(13.8%),友人・知人のもとが60人(12.0%),福祉施設が29人(5.8%),その他が79人(15.8%)となっている。
(7) まとめ
 以上,多数回受刑歴を有する者に対する更生緊急保護の実態を見てきたが,総じて年齢が高く,家族との関係に問題があり,勤労意欲に欠け,飲酒たんできの傾向を有する者が少なくない。これらの者に対して更生保護会は,生活援助,環境調整,生活訓練などの機能を果たしている。更生保護会職員は日夜,被保護者と生活を共にしつつ,これらの多数回受刑歴を有する者に対して,就職の援助,自立資金の貯蓄の奨励,家族との関係回復のための助言,社会性の訓練,更生意欲の喚起などに尽力しており,さらに,高齢者や病人などについて,必要に応じて,福祉の機関への移管や医療の手配を行い,断酒会に参加させたりもする。更生保護会におけるこれらの処遇の一層の充実のためには,更生保護会の経営基盤の強化,処遇態勢の整備,地域社会や関係機関団体の一層の協力と理解が望まれるところである。