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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第3章/第5節/1 

1 罪名及び罪種

 財産刑に相当する犯罪については,その時代の社会情勢や検挙方針などの影響を受けることが多いと考えられるので,財産刑の多数回前科者の前科罪名について,年代別に多い順に第10位までの罪名別件数を示すと,IV-38表のとおりである。総数で見ると,傷害,暴行,業務上過失致死傷などが上位を占めるが,窃盗や恐喝など罰金刑が法定刑として定められていない罪名も少なくない。これは,財産刑の多数回前科者は,これらの犯罪をも犯す者が少なくないことによるものであるが,ここでは,法定刑として罰金刑がある罪名について時代による特徴を見ることとする。
 どの時代においても,上位を占めているのは傷害と暴行の粗暴犯であるが,昭和30年代からは暴力行為等処罰法違反も加わり,また,銃砲刀剣類所持等取締法違反はどの年代においても多く,賭博も30年代を除くいずれの年代でも10位以内に入っている。20年代には,賍物罪及び食糧管理法違反が高順位にあるが,これらは年代が経過するとともにその順位が低下している。30年代には,売春防止法違反と業務上過失致死傷の増加が顕著であり,前者は40年代以降減少したが,後者は40年代に更に増加し,現在まで高い水準にある。40年代には,賭博,暴力行為等処罰法違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反などが著しく増加しているほか,新たに船舶安全法違反及び風俗営業等取締法違反が上位に入っている。50年代以降は,覚せい剤取締法違反,毒物及び劇物取締法違反など薬物事犯の増加が特徴的となっている。

IV-39表 財産刑多数回前科者の犯数別罪名順位

 財産刑の多数回前科者について,犯数と罪名の関係を見るとIV-39表のとおりである。傷害,暴行及び暴力行為等処罰法違反は,いずれの犯数でも上位を占めており,賭博,業務上過失致死傷及び銃砲刀剣類所持等取締法違反も,第21犯以降を除いて高順位となっている。このほか,初犯から第5犯までにおいて多い罪名としては,窃盗,恐喝,賍物罪等があり,財産刑の多数回前科者も当初には,これらの財産犯等を犯した者が少なくないことを示している。第6犯から第10犯まででは,売春防止法違反と覚せい剤取締法違反が増加し,第11犯から第20犯まででは,覚せい剤取締法違反が更に上位となり,船舶安全法違反,軽犯罪法違反等が高順位となっている。第21犯以降では,船舶安全法違反と船舶職員法違反が1位と3位を占め,海運関係の犯罪が目立っているほか,傷害,暴行,軽犯罪法違反,売春防止法違反,毒物及び劇物取締法違反,鉄道営業法違反,公衆迷惑防止条例違反等が上位にあり,これらは,特に多数回の罰金前科を有する者に多い罪名と考えられる。