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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第3章/第4節/2 

2 刑期と執行猶予

 次に,自由刑の多数回前科者について,自由刑前科のみを取り上げて見ることとするが,対象者の自由刑の回数は,最も少ない者であっても6回であるので,全員についての考察が可能である初回から第6回までの自由刑について,その刑期及び執行猶予の有無を見るとIV-34表のとおりである。初回の自由刑の刑期が,6月以下の者が13.4%,6月を超え1年以下の者が57.0%,1年を超え2年以下の者が20.7%,2年を超え3年以下の者が5.9%,3年を超える者が3.0%であり,執行猶予に付された者が合計56.6%となっている。第2回以降を見ると,6月を超え1年以下の者の比率が常に最も高いものの,回数が多くなるに従って減少傾向にあり,これと対照的に,1年を超え2年以下の者の比率が増加している。しかし,2年を超え3年以下の者及び3年を超える者の比率は,初回と比べると第2回から第4回まではむしろ低下しており,一方,6月以下の者は,第2回以降は初回より大幅に増加して20%前後を占めるに至っており,執行猶予が付されなくなる代わりに,短期の実刑を科される者が多くなる傾向のあることも指摘できるのである。

IV-34表 自由刑多数回前科者の自由刑回数別刑期の構成比

 次に,自由刑の多数回前科者に言い渡された執行猶予の比率とその取消率について見たのがIV-35表である。執行猶予率は自由刑の初回では56.4%であるのに,第2回では18.4%,第3回では6.9%と急激に減少するが,これは自由刑の回数が増えると執行猶予の要件を満たす者が少なくなるためである。また,自由刑の回数3回以上でも,前刑の猶予期間経過などのため,執行猶予となる者も少数ながら存在する。そして,執行猶予の取消率を見ると,初回が62.9%,第2回が67.8%,第3回が61.6%とかなり高くなっているが,この取消しはほとんどが再犯を犯したことによるものと思われる。なお,「50万人犯歴」によって,前科2犯から9犯の者の初犯時における判決の自由刑について執行猶予率とその取消率を見ると,前科2犯の者では執行猶予率77.9%(取消率23.7%),3犯の者では同73.2%(同33.9%),4犯の者では同67.8%(同38.7%),5犯の者では同65.3%(同45.2%),6犯の者では同61.6%(同48.7%),7犯の者では同61.8%(同52.2%),8犯の者では同57.8%(同53.0%),9犯の者では同56.4%(同55,6%)となっており,おおむね前科数の多い者ほど初犯時の刑の執行猶予率が低く,また,その取消率が高いと言うことができる。これらの者の取消率と比べても,多数回前科者は,執行猶予の取消率が極めて高いことが特徴的であり,特に保護観察付執行猶予の取消率が,初回が78.6%,2回目が76.8%にも上っていることは注目すべきことである。このことは,執行猶予期間中に再犯を犯す者は,多数回前科者になる可能性を秘めているとも見ることができるのであり,その場合の科刑及び処遇には十分の考慮が必要であることを示唆するものである。

IV-35表 自由刑多数回前科者の自由刑回数別執行猶予の取消率