行刑施設の保安(施設の安全及び秩序を維持する作用)は，受刑者の処遇が円滑に行われるための基盤となるものである。
　行刑施設の保安の状況は，逃走，殺傷等のいわゆる刑務事故の発生状況を見ることにより最も端的に把握できると言える。II-37表は昭和50年及び最近3年間について，刑務事故の発生状況を見たものである。61年における事故の発生件数は，前年に比べて1件減の15件で，過去10年の中では極めて低い状況にある。

II-37表　行刑施設事故発生状況(昭和50年，59年〜61年)

　ところで，受刑者の中でも，とりわけ暴力団関係者は，ややもすると所内で結束して職員に反抗したり，他の受刑者を威圧したり，他の受刑者集団と反目対立したりなどして重大な事故を招きやすく，また，最近著しく増加している覚せい剤事犯受刑者の中には，暴力団と関係のある者が多く，処遇に当たって保安上の問題を抱える者も少なくない。II-38表は，昭和50年及び最近3年間の各年末における受刑者中に占める暴力団関係者の収容状況を見たものである。全受刑者中に占める暴力団関係者の割合は，前年末の29.9%から61年末には30.2%に上昇し，特に，B級受刑者収容施設においては43.2%で，受刑者5人に2人は暴力団関係者となっている。暴力団関係者の処遇に当たっては，厳正な規律と秩序の維持に格段の注意を払い，受刑者間の人間関係をよく把握し，必要に応じて分散収容を行うなど，特に厳格な方針をもって対処している。また，暴力団関係受刑者を更生させるためには，暴力団関係組織から離脱させることが不可欠であるため，入所から出所に至るまでの全期間を通じて，関係組織から離脱するための個別相談や指導を積極的に行っているほか，離脱意思のある者が出所する時には，円滑に社会復帰できるよう，暴力団関係組織による釈放時出迎えの規制等も関係機関と連携して活発に実施している。近年，収容人員が増加傾向にあり，とりわけ暴力団関係者や覚せい剤事犯者等の処遇困難者が逐年増加しているにもかかわらず，刑務事故の発生件数は総体的に低い数値で推移しており，行刑施設の保安はおおむね平穏に保たれているが，これには，このような暴力団関係者に対する処遇方針が大いに寄与していると言える。

II-38表　暴力団関係受刑者数(昭和50年，59年〜61年各12月31日現在)