刑事訴追は,国家機関である検察官がこれを行い,私人による訴追は認められていない。しかしながら,犯罪が行われた場合において,これに最も密接な利害関係を有する者は被害者であるから,その意思を刑事手続に反映させることは,刑事司法が国民から遊離しないためにも必要なことであり,刑事訴訟法は,被害者その他の関係者の地位を配慮した規定を設けている。
犯罪により害を被った者,すなわち被害者は,検察官又は司法警察員に対して告訴をすることができる。なお,被害者以外の者でも,犯罪があると思料するときは告発ができ,特定の事件(外国国章損壊罪等)については,請求という制度がある。
告訴・告発・請求は,国家機関が捜査を行うに際して,その端緒となるものであるが,親告罪では,告訴がなければ公訴を提起することができないし,告発・請求が訴訟条件となっている場合の告発請求についても同様であり,被害者等の意思が,刑事訴追の開始・不開始に直接反映することとなる。
IV-63表は,最近3年間の検察庁における告訴・告発事件の処理人員を罪名別に見たものである。これによると,詐欺,横領等の財産犯及び強姦,強制猥褻,器物損壊等の親告罪などが,特に目立っている。昭和60年についてみると,告訴・告発事件の処理人員が多いのは,詐欺2,500人,器物損壊1,677人,職権濫用1,556人,強姦1,152人,横領1,140人などである。
IV-63表 告訴・告発事件の罪名別処理人員
告訴人,告発人及び請求人は,検察官が公訴を提起し又は提起しない処分をするなど,事件についての処理をしたときは,速やかにその旨の通知を受けられることとなっている。また,検察官が公訴を提起しない処分をした場合には,検察官に請求して,不起訴処分の理由の告知を受けることができる。
IV-64表は,最近3年間に検察庁で処理された告訴・告発事件について,処分理由別人員を見たものである。昭和60年について見ると,起訴人員は4,503人で起訴率は28.7%であり,検察庁における全事件についての起訴率89.8%と比べると,かなり低くなっている。また,嫌疑不十分の不起訴理由が多いことも,告訴・告発事件の特徴である。
IV-64表 告訴・告発事件の処分理由別人員(昭和58年〜60年)