公務員犯罪の中でも,収賄事犯は,公務の公正さに対する一般国民の信用を損ない,遵法意識を低下させるなど,その及ぼす影響が深刻かつ広範である。しかし,この種事犯は,収賄者,贈賄者の双方が罰せられることから,当事者だけで隠密裏に行われることが多く,特定の被害者が存在しないことなども加わって,極めて潜在性が強く,検挙が困難であるため,相当数の暗数があるものと考えられる。しかし,長期的にとらえた検挙状況を見れば,ある程度の実態と傾向を知ることはできよう。
I-61表は,昭和51年から55年までの5年間(以下「前期」という。)と56年から60年までの5年間(以下「後期」という。)に,それぞれ収賄罪で検挙された公務員(いわゆる「みなす公務員」を含む。)を所属別に,上位10位までを掲げて比較したものである。検挙人員総数を見ると,後期は前期に比べて92人(8.3%)減の1,015人となっている。公務員の種類別では,前期,後期とも4位までを地方公務員が占めている。また,前期,後期で順位は逆転しているが,1位と2位は土木・建築関係の地方公務員及び地方公共団体の各種議員であって,この両者が検挙人員総数に占める比率は,前期で44.6%,後期で48.5%に達している。国家公務員について見ると,前期は,郵政省関係及び建設省関係が各23人で6位,運輸省関係が20人で8位,文部省関係が15人で10位であったが,後期は,建設省関係が16人で6位,農林水産省関係が15人で7位,文部省関係及び厚生省関係が各14人で8位となっている。
I-61表 収賄公務員の所属別検挙人員(昭和51年〜55年,56年〜60年)
最近の収賄事犯の特徴を,警察庁刑事局の資料によって見ると,態様としては,依然として各種土木建築工事の施行をめぐる事犯が最も多く,次いで各種の許可・認可等をめぐる事犯,各種物品・資材等の納入をめぐる事犯が多い。また,昭和60年中に警察が検挙した事件の賄賂総額は2億4,122万円(前年より1億6,015万円,39.9%減),収賄者1人当たりの賄賂額は134万円(前年より88万円,39.6%減)となっている。
I-62表 収賄事件の第一審科刑状況
この種事犯の発生を防止する最良の方策は,検挙の徹底と厳正な処罰にあると考えられる。I-62表は,昭和55年から59年までの5年間における第一審裁判所の科刑状況を見たものである。59年中に懲役刑に処された者は148人で,そのうち懲役1年以上の刑に処された者は69.6%(103人)で,この比率は過去5年間で最も高くなっている。また,執行猶予率は59年は89.2%で,前年より4.4ポイント上昇している。なお,59年の実刑人員は16人で,懲役2年以上3年未満が5人,1年以上2年未満が11人である。