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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節 

第2節 窃盗犯罪者

 窃盗の認知件数は,昭和55年以降一貫して増加傾向にあり,しかも業過を除く刑法犯の認知件数中に占める比率は,80%を超える圧倒的な高さで推移してきている。本節では,このような窃盗事犯で検挙された者(少年を除く。)について,検察庁に送致された後の刑事司法の各段階における処遇と,その処遇を経た後における状況を,前科と再犯との関連を中心に見ることとする。
 IV-41表は,昭和54年から58年までの5年間に検察庁に送致された窃盗事犯者について,検察・裁判における,起訴猶予,起訴,執行猶予の各比率を,業過を除く刑法犯に対するそれと対比して見たものである。いずれの年次においても,業過を除く刑法犯の起訴猶予率はおおむね36%であるのに対し,窃盗事犯者は45%前後となっており,相当に高い数値を示している。一方,執行猶予率は,業過を除く刑法犯が45%前後であるのに対し,窃盗事犯者の場合は26%余りとなっており,かなり低い数値を示している。窃盗事犯者に対する起訴猶予率と執行猶予率のこのような相反する傾向は,窃盗事犯者には,いまだ犯罪性の進んでいない事犯者群と,常習者など犯罪性の著しく進んだ事犯者群との両極が存在することによるものと考えられる。また,これらの数値は,検察が,前者に対しては積極的に起訴猶予制度を活用して社会内での改善更生を図っている事実と,後者に対しては厳格に対処するとともに,施設内での矯正効果を期待していることを示すものといえよう。
 刑事司法の各段階において処遇を受けた窃盗事犯者について,その前科の有無及び内容を見ると,以下のとおりである。まず,法務総合研究所が行った前記調査によれば,昭和55年9月16日から同月30日までの間に,全国の検察庁(本庁及び同併置の区検察庁)において受理した窃盗事犯者で後に起訴猶予処分に付された421人のうち,前科のあった者は15.2%で,その内訳は罰金4.0%,懲役の執行猶予4.3%,懲役の実刑6.9%であった。また,前記電算化犯歴を利用して,55年中に裁判以後の刑事司法の各段階で処遇を受けた窃盗事犯者について,その同種前科を見ると,IV-42表のとおりである。同種前科のある者は,単純執行猶予者で9.0%にとどまるのに対し,保護観察付執行猶予者では19,6%となっており,保護観察が再犯のおそれの比較的強い者に付されていることが窺われる。また,仮釈放者及び満期釈放者については,いずれもその70%近くが同種前科を有し,しかも約50%が2犯以上有しており,実刑判決を受けた窃盗事犯者には常習性累犯者が多いことを示している。

IV-41表 窃盗事犯者等の起訴猶予・起訴・執行猶予率(昭和54年〜58年)

 次に,これら窃盗事犯者が各段階の処遇を受けた後3年以内の再犯状況を見ると,IV-43表のとおりである。起訴猶予処分に付された窃盗事犯者の3年以内の再犯率は8.1%であるが,同一の窃盗の再犯に至った者は3.6%にとどまり,当該窃盗事犯者の15.2%が前科を有していたことを考慮に入れれば,低率である。もとより,起訴猶予処分は多様な要素を総合して決定されるもので,一概にはいい難い面もあるが,このように再犯率が低いことは,起訴猶予処分が窃盗事犯者に対する処遇として,有効に機能している証左と見てよいであろう。一方で,刑事司法の各段階の後半に至るほど再犯率は高く,仮釈放者の57.5%,満期釈放者の65.7%が出所後3年以内に再犯に至っており,しかも仮釈放者の43.4%,満期釈放者の45.9%が,同一の窃盗の再犯である。この事実と,仮釈放者の24.7%,満期釈放者の27.5%が,いずれも1年以内に再犯に至っている事実は,窃盗の常習性累犯者の処遇困難性を浮かび上がらせている。

IV-42表 窃盗事犯者の昭和55年の処分別同種前科の状況

IV-43表 窃盗事犯者の昭和55年の処分別再犯状況