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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節/2 

2 矯正における処遇

 (1) 概  説
 暴力団組織に加入している受刑者(以下「暴力団関係受刑者」 という。)は,暴力団組織への帰属意識が強く,ややもすると施設内で結束して,派閥の勢力を拡大しようと企てたり,社会における派閥間の対立・抗争を施設内に持ち込み,他の派閥と反目対立して重大な事故を引き起こす危険性も高い。また,更生意欲も乏しく,生活態度においても,問題のある者が多く,職員に反抗し,他の受刑者を威圧するなど,施設の規律を乱すおそれも強い。暴力団関係受刑者の処遇に当たっては,保安及び警備を厳重にし,それらの受刑者間の人間関係,特に派閥関係に注意し,必要に応じ分散収容を行うなど,施設の安全の確保と規律秩序の維持に格段の注意を払いつつ,勤労の意欲及び習慣を助長し,生活指導を強化するなど効果的な処遇の実現に努力がなされている。また,暴力団組織からの離脱についても,関係機関と緊密な連携を保って,必要な措置を採るなどの施策が講じられている。

IV-34表 暴力団関係受刑者数(昭和50年,57年〜59年各12月31日現在)

IV-35表受刑者の状況(昭和59年12月31日現在)

 IV-34表は,昭和50年及び最近3か年の各年末における受刑者中に占める暴力団関係受刑者数を示したものである。全受刑者に占める暴力団関係受刑者の割合は,50年の21.0%,57年の26.8%,58年の27.5%,59年の28.6%と顕著な増加の傾向を示している。特に,B級受刑者(犯罪傾向の進んでいる者)を収容している施設において59年には41.3%で,受刑者5人に2人強は暴力団関係者となっている。
 このように量的にも,質的にも問題が多い暴力団関係受刑者の実態を詳細に把握するため,全受刑者を暴力団関係受刑者と暴力団関係受刑者を除く受刑者(以下「一般受刑者」という。)に分け,両者を対比しながら分析する。
 (2) 収容状況
 IV-35表は,昭和59年末における全国の行刑施設に収容中の暴力団関係受刑者と一般受刑者を累犯別,年齢層別及び刑期別に見たものである。累犯別では,暴力団関係受刑者の68.7%が累犯であるのに対し,一般受刑者では,43.2%と半数に満たない。年齢層別で見ると,20歳代及び40歳代は,両者ともほぼ同じであるが,30歳代では,暴力団関係受刑者の45.4%に対し,一般受刑者は33.6%となっている。刑期別のうち,2年以下の短期刑について見ると,暴力団関係受刑者は54.1%を占めているのに対し,一般受刑者は50.1%となっている。
 IV-36表は,昭和45年,50年,55年及び最近の3か年における裁判の確定により新たに刑務所に入所した暴力団関係新受刑者及び一般新受刑者の入所度数別構成比を見たものである。45年から58年までについて見ると,再入者が増加する傾向にあったが,59年は両者とも若干減少した。
 昭和59年末現在,全国の行刑施設に収容中の暴力団関係受刑者1万2,966人を,暴力団組織内の地位別に見ると,組長874人(6.7%),幹部4,064人(31.3%),組員6,836人(52.7%),準構成員1,192人(9.2%)となっている。
 昭和59年末における暴力団の構成員数は,警察庁刑事局の資料によると,9万3,910人で,このうち未組織暴力常習者2万6,632人を除いた6万7,278人を分母とし,受刑中の1万2,966人を分子として除算すると,組織暴力団加入者の約2割が受刑中ということになる。

IV-36表 暴力団関係新受刑者及び一般新受刑者の入所度数別人員の構成比(昭和45年,50年,55年,57年〜59年)

 (3) 処  遇
 IV-37表は,昭和59年末現在,全国の行刑施設に収容中の受刑者を,収容分類級別(第2編第3章第2節1の(1)参照)に見たものである。このうち,暴力団関係受刑者で,B級(犯罪傾向の進んでいる者)系と判定された者は,B級78.7%,YB級8.9%, LB級4.4%で,合わせて92.0%となっている。これに対し,一般受刑者では,B級45.0%,YB級2.8%,LB級2.5%,合わせて50.3%と,暴力団関係受刑者に比べると,極めて少ない。逆に,A級(犯罪傾向の進んでいない者)系と判定された者は,A級,YA級及びLA級を合わせて,暴力団関係受刑者の4.8%に対し,一般受刑者では34.5%となっており,その差は大きい。

IV-37表 暴力団関係受刑者及び一般受刑者の収容分類級(昭和59年12月31日現在)

 また,一般受刑者に比べて,暴力団関係受刑者は,行刑施設において通常実施している一般的な処遇に順応できず,問題を起こす者が多い。その処遇状況の一部を見たのが,IV-38表である。本表は,昭和59年末現在における全国行刑施設に収容中の受刑者のうち,処遇困難者,懲罰執行中の者及び昼夜独居者について見たものである。なお,両者の比較を明確にするため,1,000人当たりの指数で示した。
 処遇困難者について見ると,一般受刑者では,1,000人当たりの指数が39.7であるのに対し,暴力団関係受刑者では58.1で,1.5倍となっている。特に,反目対立による処遇困難者は4.3倍と多く,社会における派閥間の対立・抗争をそのまま行刑施設に持ち込んでおり,常に一触即発の危険性がある。

IV-38表 暴力団関係受刑者及び一般受刑者の処遇状況(昭和59年12月31日現在)

 懲罰執行中の者について見ると,一般受刑者では1,000人当たりの指数が11.3であるのに対し,暴力団関係受刑者では19.4で,1.7倍となっている。ここでも,暴力団関係受刑者が,施設の処遇規則に違反することの多いことを示している。また,昼夜独居中の者も,1.5倍となっており,所内規則違反による取調中の者とか,集団生活不適等の問題行動がある者などの多いことを示している。
 (4) 離脱指導
 暴力団関係受刑者を更生させるためには,暴力団組織から離脱させることが不可欠なことである。行刑施設は,入所から出所に至るまでの全期間を通じて,暴力団組織からの離脱を積極的に働きかけ,少しでも離脱意思のある者には,個別相談や指導を行い,離脱意思の強い者には,離脱誓約書を書かせて,関係者に送付させたりして,離脱意思を確固たるものにするための徹底的な指導などを行っている。
 暴力団関係受刑者の離脱意思を調査したのが,IV-39表である。本表は,昭和59年末現在,全国の行刑施設に収容中の暴力団関係受刑者1万2,966人と59年中に全国行刑施設を出所した暴力団関係受刑者8,700人について,出所時の離脱意思を見たものである。
 収容中の者では,離脱意思強固の者が1,907人(14.7%),離脱意思ありの者が3,906人(30.1%)で,合わせて5,813人(44.8%)が離脱意思を表明している。これに対し,離脱意思の全くない者は,3,900人(30.1%)となっている。
 次に,仮釈放により出所した者では,離脱意思強固の者が1,294人(41.9%),離脱意思ありの者が1,545人(50.1%),合わせて2,839人(92.0%)が離脱意思をもち,満期釈放により出所した者では,離脱意思強固が243人(4.3%),離脱意思ありか966人(17.2%),合わせて1,209人(21.5%)が離脱意思を表明している。

IV-39表 暴力団関係受刑者の離脱意思(昭和59年)

 これらの離脱意思表明は,仮釈放を得たいがためのものも含まれていることが推測されるが,このように多数の者が暴力団組織からの離脱意思を表明していること自体は評価すべきであり,組織とのかかわりあいの深度,.離脱後の生活設計などの点にも留意しつつ,離脱指導を引き続き,推進する必要があろう。
 (5) 再入状況
 IV-40表は,昭和55年中に全国の行刑施設を出所した受刑者について,59年末までの再入状況を,累積再入率で見たものである。まず,総数について見ると,暴力団関係受刑者の累積率は,59年末で53.1%となっているのに対し,一般受刑者では49.6%を示している。次に,出所事由別に累積率の高いものから順に見ると,一般受刑者の満期釈放者が66.7%で一番高い。次が,暴力団関係受刑者の満期釈放者で56.6%,続いて,暴力団関係受刑者の仮釈放者が43,9%,一般受刑者の仮釈放者が38.3%となっている。ここで注意すベきことは,暴力団関係受刑者の満期釈放者が,一般受刑者の満期釈放者より再入率が低いとしても,その社会に及ぼす危険性が低いということにはならないことである。暴力団組織が非合法な経済活動を行い,組織拡大のためには銃器を使用し,人命を軽視する凶悪な事件を起こすなど,極めて反社会的な行動を繰り返している以上,その動向には常に十分な警戒が必要である。

IV-40表 昭和55年暴力団関係出所受刑者及び一般出所受刑者の累積再入率(昭和55年〜59年)

 以上再入状況について見てきたが,市民生活を脅かす暴力団犯罪を,我が国から追放するためには,国民と刑事司法の各機関が一致協力して対処する強い施策が必要であり,行刑施設においても,徹底した生活指導を推進して,暴力団組織や暴力犯罪の危険性を理解させ,暴力団組織からの離脱,さらには暴力団組織の解散を目標に,引き続き積極的な施策を推進する必要があろう。