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 昭和60年版 犯罪白書 第3編/第2章/第6節/2 

2 少年の保護観察

 (1) 保護観察の受理状況
 保護観察所が昭和59年中に新たに受理した人員は,前掲II-44表のとおりで,保護観察処分少年が7万758人,少年院仮退院者が5,569人であり,前年に比べて,保護観察処分少年が373人(0.5%),少年院仮退院者が624人(12.6%)増加し,少年院仮退院者の上昇率が顕著である。
 昭和57年以降において新たに受理した人員を,保護観察処分少年については一般事件と交通事件の二つに,少年院仮退院者については刑法犯,特別法犯,虞犯の三つに大別した上,非行の種類別に示すと,III-46表のとおりである。59年について,前年に比べて見ると,保護観察処分少年では,凶悪犯及び交通事件を除いていずれも増加しており,特に増加が著しいのは財産犯710人(9.4%),性犯罪30人(7.9%)であり,また,少年院仮退院者では,業過及び道路交通法違反を除いていずれも増加しており,特に増加が著しいのは性犯罪60人(26.8%),虞犯102人(23.8%),財産犯334人(16.2%)などである。

III-46表 保護観察対象者の非行種類別受理人員(昭和57年〜59年)

 保護観察処分少年(交通短期保護観察少年を除く。以下同じ。)について,昭和59年の受理時における年齢を見ると,前掲II-46表のとおり15歳以下が13.9%,16歳・ 17歳が40.3%,18歳以上が45.7%となっているが,前年に比べると,15歳以下,16歳・ 17歳の比率が上昇し,18歳以上の比率が低下し,依然として低年齢化傾向が続いている。なお,受理時において中学校在学中である少年は59年で2,102人であり,前年の2,101人とほぼ同じである。
 (2) 保護観察の実施状況
 保護観察対象者の非行,犯罪の態様は複雑化,多様化しており,保護観察の実効を期するためには,常時,その態様を十分に把握し,これにふさわしい処遇を行う必要がある。そこで,保護観察所では,非行,犯罪の態様のほかに,原因,動機との関連,保護観察実施上の主たる問題点などを加味して,暴力団組織関係者,暴走族対象者,シンナー等濫用者,覚せい剤事犯対象者,校内暴力対象者,家庭内暴力対象者などの類型に対象者を分けた上,これに応じた処遇を行うよう努めている。
 III-47表は,保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,各類型別に人員を示したものである。現に保護観察を受けている対象者のうち各類型に該当する者が占める比率を見ると,まず,保護観察処分少年については,昭和59年において,シンナー等濫用者が21.4%と最も高く,以下,暴走族対象者5.8%,覚せい剤事犯対象者3.8%,暴力団組織関係者1.6%,校内暴力対象者1.5%,家庭内暴力対象者0.4%の順となっている。最近3年間においては,暴走族対象者が低下しているのに対し,シンナー等濫用者及び暴力団組織関係者が上昇し,また,校内暴力対象者及び家庭内暴力対象者は,58年には上昇したものの,59年には低下している。
 次いで,少年院仮退院者について同じ比率を見ると,昭和59年では,シンナー等濫用者が27.7%であり,保護観察処分少年と同様に一番高く,以下,覚せい剤事犯対象者10.2%,暴走族対象者7.4%,暴力団組織関係者5.4%,校内暴力対象者1.1%,家庭内暴力対象者0.6%の順となっている。最近3年間においては,保護観察処分少年とほぼ同様の傾向を示しているが,比率そのものは各年とも,おおむね少年院仮退院者の方が高くなっている。
 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の昭和59年における保護観察の終了状況は,前掲II-49表のとおりであるが,III-48表は,これを最近3年間において,保護観察処分少年については一般事件と交通事件の二つに,少年院仮退院者については長期処遇,短期処遇の二つに大別して見たものである。
 保護観察処分少年の解除とは,経過が良好で保護観察を行う必要がなくなったとき,保護観察所長の決定により保護観察を終了させることをいうが,59年において解除になった者の比率は,一般事件の57.5%に対し,交通事件が83.9%と高くなっている。保護処分取消しは,その大部分が再犯・再非行などの新たな行為に対し別個の保護処分又は刑事処分を受けたために,従前の保護観察が家庭裁判所の決定により取り消されたものであるが,59年に保護処分取消しになった者の比率は,一般事件の18.4%に対し,交通事件が6.1%と低くなっている。

III-47表 保護観察対象者の類型別人員(昭和57年〜59年)

III-48表 保護観察の終了状況(昭和57年〜59年)

 少年院仮退院者の退院とは,経過が良好で保護観察を行う必要がなくなったとき,地方更生保護委員会の決定により保護観察を終了させることをいうが,昭和59年において退院になった者の比率は,長期処遇の12.0%に対し,短期処遇が31.4%と高くなっている。戻し収容とは,再び施設内で処遇をする必要が生じたとき,家庭裁判所の決定により施設に収容することをいうが,59年においても,戻し収容と前述の保護処分取消しを合計した比率は,長期処遇の23.8%に対し,短期処遇が18.5%と低くなっている。

III-49表 保護観察の実施期間別終了状況(昭和59年)

 III-49表は,昭和59年における保護観察の終了状況を保護観察の実施期間別に示したものである。解除又は退院までの期間が比較的に短い1年以内の者について,まず,保護観察処分少年の解除を見ると,一般事件ではわずかに7.1%であるのに対し,交通事件では74.8%にも上り,交通事件の実施期間の方が極めて短くなっている。次いで,少年院仮退院者の退院を見ると,長期処遇では27.4%であるのに対し,短期処遇では59.8%であり,短期処遇の実施期間の方がかなり短くなっている。
 (3) 交通短期保護観察
 交通犯罪により保護観察に付される少年は,昭和30年代後半から次第に増加し,その処遇に当たっては,従来の個別処遇に併せて講習会や座談会などの集団処遇が実施されてきたが,比較的短期間で保護観察が解除される者の割合が逐年増加してきた。こうした実績をもとに,更に増大する交通犯罪少年に対処するため,法務省保護局と最高裁判所家庭局との間で協議がなされた結果,交通犯罪で保護観察処分の決定を受けた少年のうち,家庭裁判所により短期の保護観察が相当である旨の処遇勧告が付された者については,保護観察官による集団処遇を中心とした特別の処遇を集中的に実施し,特に支障がない限り,3,4か月で保護観察を解除する交通短期保護観察が,52年4月1日から実施されている。
 III-50表は,最近3年間における交通短期保護観察少年の受理・終了状況を示したものである。交通短期保護観察少年は,年々増加しており,昭和59年では4万2,924人で,前年の上昇率17.2%ほどではないものの,やはり2.8%(1,152人)上昇している。また,同年中に保護観察を終了した少年は4万2,533人であるが,そのうち97.7%が解除によって終了している。
 交通短期保護観察少年に対する処遇は,安全運転に関する討議を中心とした集団処遇と,少年からの毎月1回の生活状況に関する報告とを主な内容としている。保護観察開始後3,4か月を経過して,その間に車両の運転による再犯がなく,集団処遇に出席し,生活状況に関する報告を行い,かつ,少年の更生上特に支障がなければ,保護観察の解除が行われる。しかし,6か月を超えても解除できない状態の者に対しては,当該保護観察処分をした家庭裁判所の意見を聴いて,交通事件で一般の保護観察処分に付された者と同様の処遇が行われる。最近3年間に実施した集団処遇の回数等は,III-51表のとおりであり,昭和59年には,前年の事件受理数増加を反映したこともあって,回数では4,331回,実施延べ人員では7万6,758人と,前年に比べてそれぞれ13.6%,9.0%上昇している。

III-50表 交通短期保護観察少年の受理・終了状況(昭和57年〜59年)

III-51表 交通短期保護観察少年に対する集団処遇実施状況(昭和57年〜59年)