少年院における処遇は,在院者の特性や心身の発達程度を考慮して,明るい環境の下に,規律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,健全な生活経験を豊富に体験させ,その社会不適応の原因を除去するとともに,5長所を伸長し,心身共に健全な少年の育成を期して行われる。特に,近年においては,医学,心理学,教育学等の知識に基づき,対象者の資質の特性や,教育上の必要性に応じた分類処遇制度(III-10図参照)が整備された結果,各少年院は,担当する各処遇課程等の対象者にふさわしい教育課程(在院者・の特性及び教育上の必要性に応じた教育内容を総合的に組織化した標準的な教育計画)を編成するとともに,個々の少年について,少年鑑別所及び家庭裁判所の資料や意見も参考にして個別的処遇計画を作成し,効果的な教育を実施するように努めている。
III-37表 在院者の主な特性別構成比(昭和60年3月31日現在)
少年院の教育課程は,生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育及び特別活動の各領域で構成されている。教育課程は,課業として指導するものとされており,1週の標準課業時間は,昼間はおおむね33単位時間(1単位時間は50分),夜間はおおむね11単位時間,計44単位時間を下回らない範囲で,施設や地域の実情に応じて,少年院の長が定めることとされている。その概要は次のとおりである。
(1) 生活指導
生活指導は,在院者の心身の発達程度,資質等の特性を踏まえ,非行に直接関係のある生活態度やものの考え方を是正し,社会生活への適応を図ろうとするものである。その内容や方法は画一的なものでなく,教育実践を通じて多様に展開されている。III-38表は,生活指導の一環としての,非行にかかわる態度及び行動面の問題等に対応する特別講座の実施状況を見たものである。昭和59年には,薬物(有機溶剤及び覚せい剤)の濫用を防ぐための特別講座を設けている施設が最も多く(48庁),次いで交通・暴走族問題についてのもの(40庁)となっている。なお,生活指導課程を有する施設では不良交友・暴力団問題,女子の施設では性・異性問題に関する特別講座を設けている場合が多い。その他,親子・家族問題など保護環境上の問題に対する指導,情緒未成熟,職場不適応,勤労意欲欠如など資質上の問題に対する指導,生活マナーなど基本的生活態度に関する指導及び情操面の指導なども実施されており,これらは,集団活動,面接,相談助言,講話,心理療法等の方法によって行われている。
III-38表 特別講座実施状況(昭和57年〜59年)
(2) 職業補導
少年院に収容された者の多くは,出院後の職業生活に必要な知識や勤労意欲を欠いているため,これらの者に対しては,勤労意欲の向上,職業の選択及び職業生活への適応を容易にさせるための職業関連情報の提供,生産実習,技能実習等の職業実習並びに職業生活に関する相談助言その他の指導を内容とする職業指導と,職業に必要な知識及び技能を習得させる指導を内容とする職業訓練法等関係法令に基づく職業訓練とを実施している。なお,昭和59年中に,職業補導関係の資格・免許を取得した人員は,III-39表のとおりである。
III-39表 資格・免許取得人員(昭和59会計年度)
(3) 教科教育
義務教育未修了者に対しては,中学校の課程を履修させるため,中学校学習指導要領に準拠した教育課程を編成し,学校教育法に基づく中等普通教育を実施しており,仮退院時に学齢生徒である者が円滑に復学できるよう,また在院中に中学校の全課程を修了した者は中学校卒業証書を取得できるように配慮している。さらに,学業の中断を避け,円滑に学校生活に復帰させることを目的として,短期間の院内教育ののち,保護者のもとから在籍中学校に通学させ,週末だけ帰院させる方法が,昭和54年3月以来,播磨少年院の一般短期処遇特修科として試行されている。その後,全国数庁において,その施設や地域の実情等を踏まえつつこれと類似の方式が試行され,関係機関の注目を集めている。
高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に編入させるほか,補習教育として院内において学習指導をするなどしている。さらに,大学等への進学を希望する者に対しては,それに応じた教育内容を中心に指導するほか,文部省の行う大学入学資格検定試験を受験する機会を与えている。
昭和59年の出院者のうち,244人は学齢中に仮退院して中学校に復学し,39人は高等学校に復学している。さらに688人が在院中に中学校の全課程を修了して出身学校の卒業証書を取得している。III-40表は,59年度における出院者の進学状況等を見たものである。59年度中に出院した者のうち,83人は高等学校,46人は専修学校に進学している。また,その他の資格取得状況を見ると,中学校卒業程度認定試験に1人,大学入学資格検定試験に2人が合格している。なお,学校教育以外の教育を必要とする者に対しては,社会通信教育を受けさせており,59年度における受講者数は,前年度からの継続者も含めて,公費生654人,私費生331人である。
III-40表 出院者の進学状況等
(4) 保健・体育及び特別活動
保健・体育は,在院者の心身の健康を維持,増進するため,衛生に関する知識等の習得と体力の増強を内容としている。特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により行われるもので,その内容は,自治委員会・役割活動等の自主的活動,院外教育活動,クラブ活動,レクリエーション行事等,主として集団で行われる教育活動である。ちなみに,昭和59年中に,院外教育活動に参加するために外出した人員は延べ2万8,196人,外泊した人員は延べ1,540人である。