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 昭和60年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/6 

6 学校と非行

 学校は,少年にとって,家庭とともに最も身近な生活環境であり,しかも近年,高校進学率が9割を超えており,少年と学校生活との関係は,一層深まっている。
 III-15表は,最近5年間における交通関係業過を除く少年刑法犯について,中学生,高校生別検挙人員と,その在学生総数に対する比率を見たものである。昭和55年以降における在学生総数は,中学生,高校生共に,おおむね増加傾向を示しているが,中学生の検挙人員は58年を,高校生の検挙人員は56年をピークとしていずれも減少し,59年では,中学生は検挙人員11万8,745人,高校生のそれは6万964人となっている。検挙人員の在学生数1,000人当たりの比率は,59年では,中学生は20.4,高校生は12.8となっている。

III-15表 少年刑法犯学生・生徒別検挙人員及びその在学生に対する比率(昭和55年〜59年)

 III-16表は,最近5年間における学校内暴力事件の検挙状況を見たものである。昭和59年について見ると,検挙件数は1,683件で,前年より442件(20.8%)減少し,また,検挙人員の総数は7,110人で,前年より1,641人(18.8%)減少しており,これらの数値で見るかぎり,学校内暴力は,鎮静化してきている。

III-16表 学校内暴力事件の検挙状況(昭和55年〜59年)

 学校内暴力事件に代わって,最近,社会の耳目をひくようになったものに「いじめ」の問題がある。「いじめ」とは,警察庁によれば,「単独または複数で,特定人に対して,身体への物理的攻撃のほか,言動による脅し,いやがらせ,仲間はずれ,無視などの心理的圧迫を反復継続して加えること」とされている。さらに,最近における「いじめ」は,単に加害者側が加える攻撃の問題にとどまらず,攻撃される側,すなわち被害少年が「いじめ」に対する仕返しとして,殺人や放火などの事犯を犯したり,「いじめ」からの逃避として自殺するなど,新たな複合した問題を提起している。
 昭和59年における警察庁の調査によると,「いじめ」に起因した事件は全国で531件発生し,1,920人が検挙され,「いじめ」が原因で自殺した少年も7人いる。この検挙人員を学校別に見ると,中学生が79.5%と圧倒的に多く,次いで,高校生の18.4%,小学生の2.1%となっている。また,女子の「いじめ」が全体の33.1%を占めており,これは交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員総数に占める女子少年の比率(19,2%)と比べるとかなり高い。いわゆる「いじめっ子」の存在は今に始まったことではないが,極く普通の少年が罪悪感もなく,日常的に特定の少年を長期間無視したり,いためつけるといった最近の傾向は憂慮すべきものであり,加えて,被害少年の,「いじめ」に対する仕返しとしての事犯や自殺が少なからず見られ始めたということは,この問題に対する何らかの対策を迫るものである。この問題については,家庭,学校,警察,児童相談所,司法機関等すべての関係者が,更に真剣に検討を重ねなければならないが,特に学校の役割は,一層重要になっているといっても過言ではないであろう。