(1) 概 説
保護観察を行う機関は保護観察所であり,昭和60年6月1日現在において,本庁50庁,支部3庁のほか,27か所に駐在官事務所がある。対象者の処遇は,原則として,保護観察官及び保護司の協働によってなされている。保護観察官には,更生保護に関する関係諸科学に基づく専門的知識による活動が,また,法務大臣から委嘱を受けた民間篤志家である保護司には,地域性,民間性等の特色に基づく活動が期待されている。
保護観察処遇の実際は,保護観察官が,保護観察開始当初において,関係記録や本人との面接から得た資料等に基づき,保護観察実施上の問題点等を明らかにして,処遇計画を立て,これに沿って,主に保護司が本人との面接等により直接的な指導,援助を行う。処遇の経過は,毎月保護司から保護観察所に報告され,状況の変化に即応した処遇上の措置が講じられる。
(2) 分類処遇と定期駐在
対象者数に比べて保護観察官の定数が極めて少ないという事情があるため,保護観察官の専門性を効率的に活用するための施策として,あらかじめ対象者を分類して処遇する分類処遇制及び保護観察官の定期駐在制が実施されている。
分類処遇は,交通事件等の一部の者を除く対象者について,処遇の難易に応じて,A,Bの2段階に分類し,処遇が困難であると予想されるA分類の者に対しては,保護観察官による処遇を計画的,積極的に行うものである。昭和59年末現在においてAに分類された者の比率は,保護観察処分少年で7.2%,少年院仮退院者で25.1%,仮出獄者で7.1%,保護観察付執行猶予者で4.8%となっている。
定期駐在は,あらかじめ定めた場所に保護観察官が定期的に出張し,本人及び家族等関係者との面接による指導や相談,保護司との連絡協議等を積極的,効率的に実施するものである。昭和59年には,全国で5,998回の定期駐在が実施され,1回当たり平均8.7人に面接して,指導,助言等が行われている。
(3) 援助の措置
保護観察に付されている者が,疾病のため,又は適当な住居や職業がないため,その更生を妨げられるおそれがある場合は,公共の衛生福祉等の機関から必要な援助を得ることについて助言,指導等がなされているが,その援助が直ちに得られない場合,又は得られた援助だけでは更生のために十分でないと認められる場合は,保護観察所において,応急の援助の措置がとられている。これには,保護観察所が自ら行う食事・衣料の給与,医療の援助,帰住旅費の支給等のほか,更生保護会等に委託して行う宿泊保護がある。昭和59年におけるこれらの援助措置の実施状況は,II-48表のとおりである。保護観察所が自ら行った援助措置では,作業着等の衣料給与が691人と最も多く44.3%を占め,食事給与がこれに次いでいる。次に,対象者の種類別で見ると,仮出獄者が879人(56.3%)で最も多く,更生保護会等に宿泊保護を委託された者のうちでも,仮出獄者が5,989人(83.5%)で最も多い。
II-48表 援助措置の実施人員(昭和59年)
(4) 成績良好者に対する措置
保護観察の結果,行状が安定し,再犯のおそれがないと認められる者に対する良好措置は,対象者の種類によって異なる。保護観察処分少年については,保護観察を終了する解除又は保護観察を一時停止する良好停止が,少年院仮退院者については,保護観察を終了する退院が,刑の短期を経過した不定期刑仮出獄者については,刑の執行を受け終わったものとする不定期刑終了が,保護観察付執行猶予者については,保護観察を仮に解除する仮解除がある。昭和59年に解除の措置を受けた保護観察処分少年の合計は6万1,643人,退院の措置を受けた少年院仮退院者の合計は914人,不定期刑終了の措置を受けた仮出獄者は9人,仮解除の措置を受けた保護観察付執行猶予者は1,980人であり,前年に比べると,解除の措置を受けた保護観察処分少年及び不定期刑終了の措置を受けた仮出獄者が増加し,退院の措置を受けた少年院仮退院者及び仮解除の措置を受けた保護観察付執行猶予者が減少している。
(5) 成績不良者に対する措置
保護観察に付されていた者が,遵守事項に違反した場合,あるいは再犯に陥った場合などにおける不良措置も対象者の種類によって異なる。保護観察処分少年については,新たな処分を求めるための家庭裁判所への通告が,少年院仮退院者については,少年院に再収容する戻し収容が,仮出獄者については,所在が明らかになるまで刑期の進行を止める保護観察の停止及び施設に再収容する仮出獄の取消しが,保護観察付執行猶予者については,施設に収容して刑を執行する執行猶予の取消しが,婦人補導院仮退院者については,婦人補導院に再収容する仮退院の取消しがある。
昭和59年に少年院に戻し収容された少年院仮退院者は31人,仮出獄者で保護観察を停止された者は1,324人,仮出獄を取り消された者は1,140人,遵守事項違反によって執行猶予を取り消された保護観察付執行猶予者は98人であり,前年に比べると,遵守事項違反によって執行猶予を取り消された保護観察付執行猶予者を除き,いずれも増加している。
なお,対象者が,一定の住居に居住しない場合,遵守事項に違反したと疑うに足りる十分な理由があって呼出しに応じないなどの場合には,裁判官の発する引致状により引致を行い,さらに,必要に応じて,一定の期間,所定の施設に留置する措置がとられる。昭和59年において,引致された者は228人,留置された者は139人である。