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 昭和60年版 犯罪白書 第2編/第4章/第1節/3 

3 帰住予定先の環境の調整

 矯正施設に収容中の者の社会復帰を円滑にするため,保護観察所においては,あらかじめ,家族その他の引受人等を調査し,帰住環境の調整に当たり,相談に応じている。この環境調整は,本人が矯正施設に収容された後速やかに開始され,釈放時まで継続的に行われる。
 環境調整の経過ないし結果を記載した報告書は,定期的に又は必要に応じて,地方委員会及び本人を収容する矯正施設に送付され,仮釈放審理や矯正処遇の資料とされる。昭和59年において,保護観察所は,受刑者3万6,225人,少年院在院者6,794人,婦人補導院在院者1人,計4万3,020人について環境調整事件を新規に受理し,同年末現在,4万6,538人の環境調整を実施中である。
 矯正施設に収容される者の多くは,就業や人間関係等,社会生活基盤が劣弱なため犯罪や非行と結び付くという面が見られ,社会へ出ても,その環境が悪いため円滑な社会復帰が阻害され,再犯に陥る者も少なくない。
 法務総合研究所では,受刑者にとって社会復帰への拠点であり,同時にまた,再犯醸成の場ともなり得る帰住先環境が極めて重要であるという観点から,「受刑者の受入環境に関する研究」を実施した。これは,昭和58年に保護観察所が新たに受理した環,境調整事件のうち,更生保護会に帰任予定の者を除いて無作為抽出した2,033人の家族に関する全国調査と,東京都23特別区に帰住予定の初人受刑者で,刑務所における収容分類級がA級(犯罪傾向の進んでいない者)に属し,引受人が妻又は内妻でかつ引受意思を表明している50事例について,本人の隔離収容が引受人家族に与える影響を,面接によって明らかにしようとした調査から成っている。この結果,受刑者の引受人は,父母が37.3%,配偶者(内縁を含む。以下同じ。)が35.6%で,両者が受刑者受入れの中核的存在であり,さらに,引受人総数中,25.8%が無職者で,また,14.5%が公的扶助や親の援助を受けている者であり,全般に,受刑者の引受人は,経済的に恵まれない者が相当数存在し,これは特に,引受人が配偶者の場合において著しい。引受人の続柄と受刑者の特性との関係は,II-43表のとおりである。受刑者の年齢とも関係していると思われるが,全般に,引受人を内縁の配偶者又はその他の者にしている受刑者は,入所度数が多く,特に,暴力団組織に加入している者の占める比率が高い。また,本人の収容が引受人家族に与える影響に関する調査結果では,受刑者家族50事例のうち,夫の収容前に比べて家庭の収入が減少したと答えている配偶者が40事例あり,その対応として,配偶者が就職や親族からの援助で苦境を切り抜けている場合が少なくなく,また,経済的理由や近隣者に対する気兼ね等から転居を余儀なくされた者が12事例存在する。このように,受刑者家族が本人の収容によって直面する事態は,極めて厳しいものがあることがこの調査でも分かる。

II-43表 引受人の続柄と受刑者の特性(昭和59年)

 保護観察所では,受刑者や引受人の希望・意見等を踏まえながら積極的で有効な環境調整に努めているが,受刑者家族が直面している厳しい事態,伏在する問題や悩み等から見て,一層掘り下げたしかも適切な方法で,更生に支障のないよりよい環境条件を確立するための調整が必要と思われる。