収容されている者から申し立てられた苦情を,法令に基づき適切かつ迅速に処理することは,行刑施設の運営上重要な事項の一つである。現行監獄法今上の苦情処理制度としては,法務大臣又は巡閲官(法務大臣の命を受けて行刑施設に対する実地監査を行う法務省の職員)に対する情願があるほか,行刑施設の長に対する面接(所長面接)がある。情願は,被収容者が施設の処置に対して不服があるときに行うもので,大臣に対しては書面で,巡閲官に対しては書面又は口頭で行われるが,いずれも申出の内容が事前に施設の職員に知得されないよう秘密の申出が保障されている。情願の法的性格は,請願の一種とされ,申出に対する回答の義務はないものと解されているが,行刑の実際においては,申立事項について十分な調査を行い,申立人に対し結果を通知するなど誠実な処理がなされている。
また,所長面接も,代理者による実施を含め,活発に運用されている。
さらに,被収容者からの不服の申出を受理し,救済を図るものとしては,情願のほかに,民事・行政訴訟,告訴・告発,人権侵犯申告等の一般的な制度がある。
II-34表は,昭和40年,50年及び57年以降におけるこれらの不服申立件数を見たものである。近年,各種の不服申立てが増加しているが,このことは,一般社会における権利意識の高まりを反映した被収容者の権利意識の増大,不服申立ての簡明な手続の保障等の結果によるものと解することができよう。なお,59年においては,前年に比べて総数ではやや減少しているが,訴訟申立件数では逆に増加している。
II-34表 被収容者の不服申立件数(昭和40年,50年,57年〜59年)