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 昭和60年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/1 

第2章 各種犯罪と犯罪者

第1節 暴力団犯罪

1 概  況

 暴力追放の広範な国民世論と厳しい取締りにもかかわらず,暴力団は依然として根強くその勢力を維持し,我が国の犯罪情勢全体を悪化させる大きな要因となっている。
 最近5年間における暴力団の勢力の推移を団体数及び構成員数で見ると,I-17表のとおりである。暴力団は,昭和38年に団体数5,216団体,構成員数18万4,091人と頂点に達したが,その後の取締りの強化により,減少傾向を示し,59年末現在における暴力団は,団体数で2,278団体,構成員数で9万3,910人となり,前年に比べて団体数で52団体,構成員数で4,861人の減少となっている。いわゆる広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)は,59年末では,団体数で全体の80.1%,構成員数で58.8%と,前年に比べて若干減少している。しかし,大規模広域暴力団は,団体数で45.7%,構成員数で34.2%を占め,前年に比べてそれぞれ1.2ポイント,1.0ポイント増加しており,寡占化の傾向を一層強めている。

I-17表 暴力団の団体数及び構成員数(昭和55年〜59年各12月31日現在)

 このような情勢にあって,暴力団の連合化,系列化等の勢力拡大をめぐる組織間の対立抗争事件は,依然として各地に発生し,なかでも,昭和59年6月の全国最大の広域暴力団山口組の分裂に始まる対立抗争は,地域社会に大きな不安をもたらしている。
 I-18表は,最近5年間における暴力団相互の対立抗争事件を見たものである。昭和59年における抗争事件の発生件数は,前年に比べ5件減少し,抗争事件における銃器の使用件数も7件減少しているが,この減少は一時的なものと思われ,前述の山口組の分裂に伴う抗争事件等の発生により,60年には著しく増加する見通しが強まっている。
 最近5年間の暴力団関係者(準構成員及び暴力常習者を含む。)から押収したけん銃の種類別押収数は,I-19表のとおりである。昭和59年のけん銃の押収数は,前年に比べて640丁増加して1,729丁となり,過去5年間の最高となっている。これらのうち,真正けん銃の多くは海外から密輸入されたものである。59年における銃器発砲事件は,139件で,前年に比べ91件減少しているが,これは58年に対立抗争事件における銃器使用が,57年の70件に比ベ約2倍の160件と,異常に増加したためで,57年の125件に比べると若干上回っている。また,これによる死者は18人(前年は19人),負傷者54人(同77人)と若干の減少を示している。しかし,前述したように,山口組の分裂による対立抗争を起因とする死傷者の増加は必至であり,加えて最近の暴力団関係者の武装化,凶悪化等の著しい動向がみられるので,今後とも十分な警戒を要する。

I-18表 暴力団対立抗争事件の発生件数(昭和55年〜59年)

I-19表 暴力団関係者からのけん銃押収数(昭和55年〜59年)

 暴力団の資金源としては,風俗営業,興行,金融業,土木建築業など一応合法的事業といい得るものもあるが,主要なものは依然として覚せい剤の密売,のみ行為,売春,賭博等の非合法なものである。特に,覚せい剤についてはばく大な利益が得られるため,組織ぐるみで密輸入,密売に当たっている暴力団が少なくない。
 その他,最近においては,暴力団組織の威嚇力を背景にした民事介入暴力事犯や社会保障制度を悪用した給付金等の不正受給事犯なども増加し,不法利得獲得のため,様々な手口を用い,かつ,知能犯化の傾向をますます強めており,その動向にも十分な警戒を払う必要がある。