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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第4章/第1節 

第4章 高齢化社会と犯罪

第1節 概  説

 近年,我が国における人口の高齢化現象は著しく,総理府の資料によると,II-61表に示すとおり,65歳以上の高齢者の数及び総人口中に占める割合は,これまで一貫して増加しており,昭和58年10月1日現在では,1,167万2,000人,9.8%に達している。しかもこの傾向は,平均寿命の伸びや出生率の減少等によって,今後も30年余りの間,他国に例を見ないほどの勢いで更に強まるものと予想され,65歳以上の者の総人口に対する割合は,65年(1990年)にアメリカの現水準を抜き,75年(2000年)には15.6%と現在の(昭和25年,30年,35年,40年,45年,50年,55年,58年)ヨーロッパ諸国の水準に達し,85年(2010年)ころには,欧米諸国の中で最も人口の高齢化が進むと予想されているスウェーデンを上回り,最高水準としては,95年(2020年)に21.8%まで達し,その数は,2,795万人に及ぶものと見込まれている。

II-61表 高齢者人口の推移

 このような急激な人口の高齢化への対応として,老人福祉法でも,その基本的理念として掲げるように,高齢者の生活を保障するとともに,その能力に応じた就業その他社会的活動に参与する機会を確保することが,強く要請されている。総理府の『労働力調査年報』によると,65歳以上の者の就業者数は逐年増加し,昭和58年には51年の1.2倍の292万人に増加している。
 しかし,厚生省の『国民生活実態調査報告』によると,高齢者世帯(男子65歳以上,女子60歳以上の者のみで構成するか,又は,これに18歳未満の者が加わった世帯をいう。)の所得のうち,年金,恩給及びその他社会保障給付金等の公的扶助の占める比率は逐年増加して,昭和57年には47.9%を占めており,一方,稼働所得はおおむね低下ないし横ばい状況にあり,同年に41.8%となっている。さらに,厚生省の『厚生行政基礎調査報告』によると,高齢者世帯は,実数及び世帯総数に占める比率が共に増加し,58年には,279万2,000世帯,7.6%になっている。
 高齢者は,既に見たように,現代社会の重要な構成員であり,その社会的役割は,今後ますます高まっていくものと思われる。高齢化現象が急激に進展する中で,高齢者の健全で安らかな生活が保障されるためには,高齢者を犯罪から守ることも不可欠な政策の一つである。このような観点から,第2節以下においては,高齢者が直接犯罪の当事者となる場合,すなわち,高齢者の犯罪及び高齢犯罪者の処遇の現況と,高齢者の犯罪被害等の状況とを概観することとする。