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3 非行少年の意識 これまで,犯罪の状況のほか犯罪者の身上・属性など,いわば外形的な状況や事情を分析して,少年において前述した非行の一般化現象が認められるばかりでなく,成人においてもその徴候が窺われることを示した。
そこで更に進んで,行為者の個々の意識にまで立ち入って検討することとし,昭和58年に法務総合研究所が非行少年と一般少年に対して行った意識調査から関連の深い部分を見てみる。 この調査は,昭和58年7月,全国の少年鑑別所に収容されていた16歳未満の者281人及び少年院に収容されていた本件非行当時16歳未満の者628人並びに小都市及び山間部の公立中学校各1校の2,3年生674人に対して行ったものである。 II-9表 生い立ちについての意識 ―家庭に関して II-10表 生い立ちについての意識 ―学校に関して なお,この調査は現在続行中であって,以下の分析も,調査の全容を示すものではない。II-9表は,家庭に関する意識を見たものである。小学生当時「親にほめられたくて,言われたことを一生懸命した」と思っている者は,少年鑑別所在所少年や少年院在院少年では,一般少年とほぼ同じかむしろ高い比率を示し,また,中学生当時に親の心遣いを感じている者も,一般少年に比し少年鑑別所在所少年や少年院在院少年の方が著しく高い比率を示している。 II-11表 生い立ちについての意識―仲間との関係について― 次に,学校に関しての意識を見るとII-10表のとおり,ここでも,男子では小学生・中学生当時,女子では中学生当時,信頼できる教師がいたとする者の比率は,非行少年群の方が高く,特に中学生でその差が著しい。逆に,教師が「えこひいきする」という不信感を示す者は,男女合わせて見ると一般中学生の方が多くなっている。仲間との関係についての意識を見ても,II-11表のとおり,小・中学生当時,非行少年の方が,うまく仲間を作れるし,また,友だち仲間のなかでリーダーシップを発揮する機会が多かったことが示されている。 さらに,II-12表に見るとおり,非行少年の方が早く大人になりたがっているし,一般少年にはいつまでも子供でいたがる者が多いという結果も出ていて,一見非行少年の方が積極性があるかのような形になっている。 現在及び将来の生活行動等についての意識を見ると,II-13表のとおりである。ここでも,堅実と言える反応を最も強く示しているのは少年鑑別所在所少年であり,これに一般少年,少年院在院少年が続いている。 現在の自己についての意識を見ても,II-14表のとおり,非行少年の方には「自分のことは自分がいちばんよく知っている」とか,うまく世渡りできるなど,一般少年よりも独りよがりな反応を示していると見られるところもあるが,一般少年の方にも,非行少年と同様,「悩みごとはなるべく忘れるようにする」とか,余り他人に相談をもちかけないなど,自分を見つめることに消極的な態度が見られる。 II-12表 生い立ちについての意識 ―成長にまつわる― II-13表 生活行動等についての意識 II-14表 自己についての意識 さらに,法務総合研究所が昭和58年に保護観察中の年少少年に対して行った意識調査の結果と56年から57年にかけて総理府が行った一般少年の意識調査の結果とを比較して見ても,II-1図のとおりで,各種の好ましくない行為に対する許容の態度の相対的な強弱を比較するグラフの型は,非行少年も一般少年もほぼ同一のパターンを示しているが,各行為に対する個別の評価を見ると,多くの行為について,非行性の余り進んでいない保護観察少年の方が一般少年よりも厳しい見方をしていて,非行性のより進んでいる少年が最も許容度が高く,違法ないしは不良行為に親近感を示している。この調査は,非行少年と一般少年とで調査年次が1年余ずれていることから,必ずしも厳密な比較とは言えない面もあるが,質問項目をそろえるなどの調整を図っているので,かなり妥当性があると言えよう。このように,ここに取り上げた質問項目で見る限り非行少年たちは,家庭に対しても,学校に対しても,仲間との関係でも,自己についての意識でも,さらには,好ましくない行為に対する許容度でも,一般少年と変わらないか,むしろ堅実とも言える反応を示している。そして,教師や親との関係では,問題が生じたため積極的な働きかけが多くなるせいか,教師や親に対する信頼がより深くなっているという結果さえ出ている。 もちろん,これらの調査対象少年のうち,非行少年,特に,少年鑑別所在所少年はその処分が未定であって不安定な立場にあることが,意識そのものにも,また回答の態度にも影響している可能性のあることは否めないし,調査は,まだその一部の分析を行った段階にすぎないので,ここで早急に結論を出すことはできないが,今見た限りでは,非行少年たちも,一部では一般少年より堅実とも言える反応を示しており,全般を通じて特殊な意識を持っているものではないように見える。 II-1図 各種行為に対する一般少年及び保護観察対象少年による許容の程度 |