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 昭和58年版 犯罪白書 第3編/第2章/第2節/2 

2 終局裁判

 (1)第一審
 昭和56年において,地方裁判所及び簡易裁判所が,通常の裁判手続によって処理した結果を罪名別に見ると,III-10表及びIII-11表のとおりである。
 地方裁判所における終局処理人員総数は,前年より1,080人(1.7%)減の6万4,289人となっている。これを罪名別に見ると,前年同様,覚せい剤取締法違反が1万5,409人(24.0%)と最も多く,以下,業過9,284人(14.4%),道交違反8,142人(12.7%),窃盗5,417人(8.4%),傷害4,517人(7.0%),詐欺4,442人(6.9%)の順となっている。終局処理人員総数が減少している中で,覚せい剤取締法違反人員は前年より1,072人(7.5%)増加し,全体に占める比率も,51年の11.6%から逐年上昇を続け,56年には24.0%に達している。このほか,前年に比べて,強盗が107人(14.9%),恐喝が191人(7.2%),詐欺が225人(5.3%)の各増加を見せている。無罪率は,総数では0.2%であるが,罪名別で見ると,公職選挙法違反が5.8%と際立って高い。

III-11表 罪名別簡易裁判所終局処理人員(昭和56年)

 簡易裁判所の通常裁判手続による終局処理人員総数は,前年より170人(1.0%)減の1万7,104人で,3年連続の減少傾向を示している。懲役言渡人員中,93.9%の1万2,356人が窃盗であり,罰金言渡人員中63.0%の1,489人は業過及び道交違反によるものである。無罪率は,総数では0.5%であるが,罪名別で見ると,公職選挙法違反(8.4%),業過(5.6%)が高い。
 簡易裁判所の略式命令手続によって,昭和56年中に罰金又は科料を科された者は,211万8,744人であり,罪名別構成比で見ると,業過及び道交違反が95.0%と圧倒的に高く,次いで高い暴行及び傷害においても1.1%にとどまっている。
 家庭裁判所が,昭和56年に,少年に対する成人の刑事事件について,懲役刑を言い渡した人員は261人で,その98.1%は児童福祉法違反によるものであり,罰金言渡人員は157人で,その74.5%は労働基準法違反である。
 (2)上訴審
 昭和56年における第一審裁判に対する控訴率を見ると,地方裁判所の裁判に対しては12.3%,簡易裁判所の裁判に対しては5.6%となっている。56年の高等裁判所の控訴受理人員を,控訴申立当事者別に見ると,検察官の申立てによるもの240人,被告人側の申立てによるもの7,227人,双方からの申立てによるもの50人である。

III-12表 罪名別控訴審終局処理人員(昭和56年)

 III-12表は,昭和56年中に,高等裁判所が控訴審として処理した結果を罪名別に見たものである。終局処理人員総数は,前年より225人減の7,643人で,そのうち,14.4%は控訴が取り下げられ,65.4%は控訴が棄却され,19.6%は原裁判が破棄された上,改めて裁判が言い渡され(破棄自判),0.4%は原裁判が破棄されて更に審理を尽くすべく第一審に差し戻されている。これを罪名別に見ると,取下率は,窃盗が25.8%と最も高く,これに続いて,賭博・富くじ(24.2%),覚せい剤取締法違反(21.5%)の順となっている。なお,取下げは,1件を除くほかは被告人側によるものである。破棄自判の率は,過失傷害の33.8%及び詐欺の31.9%が高い。破棄理由を見ると,破棄人員総数1,531人中58.5%の895人は,量刑不当を理由とするものであり,自判の結果,原裁判を覆して無罪となった者は41人である。なお,検察統計年報によれば,検察官が第一審の無罪判決を不服として控訴した事件のうち,56年中には33名の被告人に対し控訴審の判決が言い渡されているが,そのうち22人については,一審判決を覆して有罪と認められている。
 昭和56年における控訴審の裁判に対する上告率を見ると,全体では36.6%で,控訴率に比べると著しく高くなっており,罪名別では,公務執行妨害(63.4%),私文書偽造(58.4%),贈収賄(50.9%),道交違反(46.4%),賭博(46.4%),公職選挙法違反(45.2%)などは高く,殺人(22.8%),窃盗(22.2%),強盗(10.9%)などは低くなっている。
 昭和56年中に,最高裁判所が上告審として終局処理した人員は2,297人(前年と同数)であるが,その内訳は,上告取下げ371人(16.2%),上告棄却1,906人(83.0%),原裁判破棄9人となっている。原裁判の有罪を覆して無罪となった者はいない。