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 昭和58年版 犯罪白書 第2編/第1章/第3節/1 

第3節 暴力団犯罪

1 概  況

 市民生活に様々な形で被害を及ぼし,不安を与える暴力団とは,博徒,暴カテキ屋,青少年不良集団などを総称するものであり,「集団的又は常習的に暴力的不法行為を行い又は行うおそれのある組織又は集団」と,その特性をとらえて定義づけられることが多い。しかし,暴力団と目されるもののうちには,それぞれ異なった構成,背景,沿革を持つものが存在し,これを一義的にとらえることが困難である。暴力団自体の多様性から,暴力団の関係する犯罪においても,極めて広範な広がりをみせ,さらに,最近の暴力団は,その行動範囲をますます多方面に拡大し,各種の合法・非合法の営利活動を営むことによって,組織の維持・強化を図っている様子がうかがわれ,関係する犯罪も暴力事犯に限らず,詐欺・横領・背任,更には贈収賄等の知能犯にまで及んでいる。暴力団こそは,我が国における暴力犯罪を中心とする犯罪の主要な担い手であって,さらに,このような暴力団の存在自体が一部に見られる暴力依存の風潮を助長することにもつながり,その反社会的行為は,我が国の社会秩序一般に少なからず悪影響を及ぼし,市民生活の安全を脅かす一方で,犯罪情勢全体を悪化させる根源的要因の一つとなっている。
 捜査機関をはじめ,国・地方公共団体の関係諸機関が,挙げて暴力団及び暴力団犯罪対策を推進し,さらに,ジャーナリズム,その他民間各層においても,暴力団の撲滅を図っているにもかかわらず,暴力団は,団体数及び構成員数においては減少の傾向を示しながらも,その関与する犯罪はますます悪質化の徴候を強めている。
 まず,最近5年間における暴力団の団体数及び構成員数の推移を見ると,II-9表のとおりである。団体数,構成員数共に昭和38年の5,216団体,18万4,091人を頂点として,以後減少傾向を示しており,57年末現在で,警察庁の把握している暴力団は,団体数で2,395団体,構成員数で10万237人となっている。しかし,その実態を見るとき,団体数や構成員数の減少をもって,にわかにその及ぼす害悪が減退したとは認められず,むしろその反社会的行動がますます活発となり,社会により害悪を及ぼしていると見られる。すなわち,まず,その組織状況を見ると,いわゆる広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)の全暴力団に占める比率は,57年末現在,前年に比べ,団体数では79.5%(前年は79.8%)とやや減少しているものの,構成員数では58.8%(前年は57.9%)と増加し,さらに,特定の大規模広域暴力団による寡占化傾向が年々強くなっている。そのため,これら暴力団の連合化,系列化をめぐる組織間の対立抗争事犯も,各地で,依然として跡を絶たない状況にある。

II-9表 暴力団の団体数及び構成員数(昭和53年〜57年各12月318現在)

 II-10表は,最近5年間におけるこの種対立抗争事犯の発生件数及び銃器の使用状況を見たものである。昭和57年における発生件数は,前年の26件から29件へと増加し,しかも,そのうち,銃器が使用された件数は26件(89.7%)にも上っていることは,注目される。
 銃器等の凶器を押収することは,暴力団取締りの重点の一つであるが,最近5年間における暴力団関係者(準構成員及び暴力常習者を含む。)からの押収凶器数を種類別に示すと,II-11表のとおりである。昭和57年における押収凶器数は7,114点で,前年より336点(4.5%)の減少となっている。しかし,けん銃については,この5年間で最高の1,131丁(前年より104丁増)に上り,うち,真正けん銃の占める割合も年々増加して,65.4%(740丁)となっている。これら真正けん銃の多くは,海外から様々のルートと方法で密輸入されたもので,けん銃の押収状況は暴力団の武装化という危険な動向をうかがわせる。なお,暴力団関係者による銃器発砲事件は年々増加を続け,57年における発生件数は,この5年間で最高の125件となり,使用された銃器は,けん銃が114件(91.2%),その他の銃器が11件(8.8%)で,これによる死者は10人,負傷者は38人に上り,一般人を巻き込んだり,警察官に発砲するなど,その態様も悪質化の傾向を強めている(警察庁刑事局の資料による。)。

II-10表 暴力団対立抗争事犯の発生件数(昭和53年〜57年)

II-11表 暴力団関係者からの押収凶器数(昭和53年〜57年)

 暴力団の活動を支える資金源について見ると,バーなどの風俗営業,ラーメンなどの屋台営業,歌謡ショーなどの興行,金融業,土木建築業など,一応,合法的事業といい得るものもあるが,主要なものは,覚せい剤の密売,賭博,売春,のみ行為等非合法活動によるものである。また,覚せい剤をはじめ,けん銃等の密輸入,海外への賭博ツアーなど,利益を求めての暴力団の海外進出も活発化し,暴力団犯罪の国際化も最近の著しい傾向となっている。暴力団の資金源のうち,特に覚せい剤の取引は,ばく大な利益が得られるところから,組織ぐるみで密輸入,密売に当たっている暴力団が少なくない。
 II-12表は,最近5年間における暴力団関係者からの覚せい剤の押収量を見たものである。増加を続けていた押収量は,昭和57年においては,50.685kgと前年より減少したが,全押収量に占める割合は47.4%と依然として高い。
 以上のような伝統的な資金獲得方法に加えて,最近においては,各種保険制度を悪用する詐欺事犯,民事事件,例えば,債権取立,倒産整理,不動産取引,交通事故の示談等に介入し,暴力団組織の威嚇力を背景に不法に金員を獲得する事犯も増加するなど,暴力団の資金獲得活動は,多角化,知能化の傾向を強めている。
 その他,暴力団のいわゆる総会屋への進出傾向は一層強くなり,昭和52年には,総会屋に占める暴力団の比率が10.2%に過ぎなかったのが,逐年上昇し,57年9月末では29.7%(2,012人)に達し,総会屋全体の4分の1強が暴力団関係者によって占められるに至っている(警察庁刑事局の資料による。)。なお,総会屋については,この種活動を排除するため商法の一部が改正され,57年10月1日に施行されたことに伴い,広告業,出版業等への転進又は政治団体の結成を図るなどの合法を仮装するためと認められる動きもあり,今後とも十分な警戒が必要であろう。

II-12表 暴力団関係者からの覚せい剤押収状況(昭和53年〜57年)