第6節 外国人犯罪と日本人の国外犯
1 概 説 近年における交通機関,情報伝達手段等の飛躍的な発達に伴い,社会生活の活動範囲が諸外国にまで拡大し,諸外国との交流はあらゆる面において一層活発なものとなった。このような国際化の傾向は,一面においては,来日外国人の増加と,それに伴う外国人犯罪の増大を招き,他面で,刑事司法手続にも大きな影響を及ぼし,被疑者などの外国への逃亡やそれらの犯罪人の身柄確保及びその引渡し,外国に存在する証拠の収集等の捜査手続や公判手続など,国際間の協力の必要性を高めている。 (1)犯罪人の引渡し 昭和57年末現在で,国外に逃亡していると推定される被疑者は153人に上っている。最近,我が国が犯罪人引渡条約を締結している相手国に正式要請して,身柄の引渡しを受けた事例としては,54年に殺人未遂犯1件,57年には業務上横領犯1件がある。また,同年中に,捜査員を逃亡先国へ派遣して身柄を確保した事案が4件,逃亡先国における国外退去強制処分等により我が国に帰国した際に逮捕した事案が4件あった。これらのうちには,フィリッピンから,けん銃10数丁を日本国内に密輸入し,そのままフィリッピンに潜伏していた暴力団準構成員の被疑者が国外退去となったところを,派遣した捜査員によって逮捕された事例などがある。 我が国が正式請求を受け,逃亡犯罪人引渡条約を適用して逃亡犯罪人を引き渡した事例は,最近では,昭和56年に殺人犯1件(アメリカ)がある。 (2)捜査・司法共助 昭和57年においては,アメリカ及びフランスから,証拠物の押収及び送付,参考人からの供述調書録取依頼等の捜査共助の要請が4件あり,国際捜査共助法(55年法律第69号)に基づいて処理されている。このうち特異な事例としては,パリにおける邦人留学生によるオランダ人女子学生殺害事件について,フランス当局からの捜査共助の要請に基づき,当該被疑者をかって治療した医師等から事情を聴取するに際し,来日したパリ大陪審予審判事等の同席を認めて取調べを行い,その供述調書を作成して提供したものがある。
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