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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第5章/第1節/3 

3 覚せい剤事犯の激増の要因

 覚せい剤事犯が激増している原因については,覚せい剤の需要者である濫用者が逐年激増していること,覚せい剤の供給が暴力団を中心とした大規模かつ組織的な密輸入,密売によるため,その取締りが困難で,覚せい剤の安定した供給を許す結果になっていることなどに要約されよう。
 覚せい剤のもたらす薬理作用が,近年,社会にうかがわれる享楽的風潮と結び付き,覚せい剤濫用者を生み出すとともに,いったん覚せい剤濫用に陥ると,濫用の習癖を根絶することが困難であることも,覚せい剤事犯の激増の原因と言えよう。
 暴力団からの働きかけにより,覚せい剤を入手するケースが比較的多いという法務総合研究所の調査結果でも明らかなように,覚せい剤の密輸,密売を重要な資金源とする暴力団の,少年・婦人層などへの積極的な需要者層拡大活動には目を見張るものがある。
 また,暴力団だけではなく,末端の濫用者が,覚せい剤購入資金を入手するため自ら密売人となり,新たな需要者をつくり出して買手にするという需要者増殖作用も顕著であり,これも需要者激増の一因となっている。
 昭和20年代の流行期の覚せい剤濫用の供給源は,大部分国内における密造品であったため,供給面から犯罪を鎮圧することが可能であった。ところが,近時は,海外に豊富な覚せい剤の供給源があり,そこから大規模かつ組織的に密輸入されている。しかも,我が国は四面を海に囲まれている上,海外との人的,物的交流はますます拡大する一方であり,それに加えて密輸入の手口は多種多様で巧妙化しているなど,種々の要因から密輸入事犯の完全な検挙は著しく困難で,なかなか密輸入を根絶するに至らず,大量の覚せい剤が我が国に持ち込まれる結果となっている。
 更に,密輸入された覚せい剤は,暴力団が支配・介入する密売ルートを経て,末端濫用者の手に渡るのであるが,覚せい剤の密売が,資金源獲得の重要な手段であることから極めて巧妙に行われているため,その抜本的な取締りが一挙に行われにくい状況にあることが,国内での覚せい剤の流通を阻止できない結果となっている。このように,覚せい剤の供給が結果的に安定していることが,供給面から見た場合のこの種事犯激増の要因であろう。