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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節/1 

1 覚せい・剤取締法違反

 覚せい剤事犯は,昭和20年代後半から30年代初めにかけて第1の流行期が見られ,その後長期間にわたり,ほぼ鎮静化していたが,40年代後半以降再び増加傾向船示し,現在もこの傾向が続いており,第2の流行期と言われている。IV-53表は,覚せい剤事犯の第1の流行期である26年以降32年までと第2の流行勤の47年以降56年までについて,検察庁の処理状況を見たものである。第1の流行期について見ると,処理人員は26年の6,218人から急激な増加を示し,29年には4万5,673人に達したが,その後急激に減少し,32年では1,772今となっている。起訴率は,26年の48.7%から次第に上昇し,29年及び30年セは63.3%となったが,処理人員の減少した32年には40.7%となっている。起訴人員のうち,公判請求人員の比率は,29年で34.4%,30年で39.5%であり,罰金で処理される者が過半数を占めていた。次に,第2の流行期について見ると,処理人員は,罰則の強化等の改正がなされた48年の翌年である49年に一度減少したものの,その後は逐年増加を続けている。起訴率は,47年の77.2%から49年の69.2%まで低下したが,その後は逐年上昇し,56年では89.3%にまで達している。56年における業過を除く刑法犯の起訴率が58.2%,道交違反を除く特別法犯の起訴率(覚せい剤取締法違反を除く。)が75.5%であることを見れば,覚せい剤事犯の起訴率の高さは,この種事犯に対し,検察が厳しい姿勢で臨んでいることを表していると言えよう。

IV-53表 覚せい剤事犯検察庁処理状況(昭和26年〜32年,47年〜56年)

 第1の流行期と第2の流行期とを比較すると,前者では,起訴人員中,略式命令請求で処理される者の比率が高く,過半数を占めているのに対し,後者では,昭和48年の法改正により,実質犯の法定刑が懲役のみに限定されたため,起訴人員のほとんどが公判請求となっている。また,起訴率も後者が前者を大幅に上回っている。

IV-54表 覚せい剤事犯通常第一審刑期別構成比及び執行猶予率(昭和26年〜32年,47年〜55年)

 IV-54表は,通常第一審裁判所において,覚せい剤取締法違反により懲役刑に処せられた者について,刑期別構成比及び執行猶予率を見たものである。まず,刑期別で見ると,第1の流行期の昭和26年では1年未満の者が90%を超えていたが,次第に低下し,32年では69.6%となっている。第2の流行期では,50年に70%を超えたが,以後低下し,55年では55.5%となっている。特に,6月未満の者の占める比率が,32年に30.9%であったのが,55年では5.4%と大幅に減少しており,また,1年以上2年未満の者の占める比率が32年では23.7%であったのが,55年では34.9%と上昇しており,最近においては,刑期がやや長くなってきていると言えよう。次に,執行猶予率について見ると,第1の流行期の27年に66.9%であったものが,急激に低下し,32年では31.4%と半減している。第2の流行期では,51年に59.5%とこの間の最高を記録した後,減少に転じたが,55年においても51.1%と半数以上を占めており,この両者の間には大きな相違が認められる。

IV-55表 麻薬事犯検察庁処理状況(昭和33年〜39年,47年〜16年)

 次に,電算化犯歴から業務上過失致死傷犯歴保有者を除外して抽出した50万人中,覚せい剤取締法違反により執行猶予となった者について,最近の取消率(昭和57年6月5日現在)を見ると,51年の単純執行猶予者で21.6%,保護観察付執行猶予者で41.6%,52年は,それぞれ,25.3%,41.9%,53年は,それぞれ,22.5%,42.2%となっており,保護観察付執行猶予では,単純執行猶予の約2倍の比率の者が執行猶予を取り消されている。