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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第2章/第4節/1 

第4節 最近の覚せい剤犯罪をめぐる問題点

1 暴力団の関与

 IV-42表は,昭和47年以降10年間における覚せい剤事犯の検挙人員中に占める暴力団関係者の検挙人員及び全検挙人員中に占める比率を見たものである。全検挙人員中に占める暴力団関係者の比率は,年々,わずかながら低下してきているが,検挙人員は,49年に減少したものの50年以降は一貫して増加を続けており,55年に1万人を超え,56年には,更に928人増加して1万935人に達している。
 また,昭和52年以降5年間における暴力団関係者の検挙人員の罪名別構成比を示したのが,IV-43表である。56年の暴力団関係者の過失犯を除く刑法犯及び道交違反を除く特別法犯を併せた検挙人員は,5万2,670人であり,そのうち,覚せい剤事犯による検挙人員の占める比率は20.8%で,罪名別検挙人員では,第1位となっている。この比率の推移を見ると,52年から54年までは,傷害についで2位であったものが,55年からは第1位となっており,その比率も,逐年上昇している。

IV-42表 暴力団関係者の覚せい剤事犯検挙状況(昭和47年〜56年)

IV-43表 暴力団関係者検挙人員の罪名別構成比(昭和52年〜56年)

 IV-44表は,昭和47年以降10年間における暴力団関係者からの覚せい剤の押収量を見たものである。51年には前年に比べて減少したが,52年からは再び増加を続け,56年では,前年より約15kg増の83.97kgで,全押収量に占める割合も59.7%となっている。
 前述した法務総合研究所で行った調査に基づき,以下,暴力団と覚せい剤との関係について述べることとする。まず,覚せい剤事犯の態様,実刑の前科歴及び犯行動機について,暴力団加入者と暴力団と関係のない者とを,検察庁での調査で比較して見たのが,IV-45表である。事犯の態様では,暴力団と関係のない者に比べて,暴力団加入者は,譲渡,所持の比率が高く,譲受,使用の比率は低くなっている。実刑前科歴では,実刑前科のある者のうち,覚せい剤事犯による前科のある者は,暴力団と関係のない者でも42.9%と高い率を占めているが,暴力団加入者は51.9%と半数以上に達し,暴力団と覚せい剤のかかわりの深さを示している。更に,犯行動機では,全体に占める割合は低いものの,暴力団加入者のうち,利欲,資金稼ぎを動機とする者が2割近くいる。

IV-44表 暴力団関係者からの覚せい剤押収状況(昭和47年〜56年)

IV-45表 暴力団加入者の態様・前科・動機別構成比

 次に,前掲のIV-23表により覚せい剤事犯受刑者と暴力団との関係を見ると,男子受刑者は,暴力団加入者が41.0%,暴力団加入者の家族や交際のある者など暴力団と関係のある者が28.9%となっており,暴力団と関係のない者は29.5%にすぎない。また,女子受刑者では,暴力団と関係のある者は,暴力団加入者の妻の28.8%をはじめとして,61.8%に達しており,暴力団と関係のない者は35.8%にすぎない。このように,覚せい剤事犯受刑者の多くは,暴力団と関係があり,覚せい剤事犯における暴力団との結び付きの強さを示していると言えよう。
 また,暴力団加入者で自己使用の男子受刑者(暴力団加入者に占める割合は85.5%である。)の覚せい剤入手のための資金源を見ると,自分が使用する覚せい剤を得るために,覚せい剤の密売をしていた者は27.1%であり(暴力団と関係のない男子受刑者では6.8%にすぎない。),暴力団加入者の妻では23.2%である(暴力団と関係のない女子受刑者では11.0%である。)。このことは,暴力団関係者が,自己の使用する覚せい剤,いわゆる「射ち分」を得るためにも,覚せい剤の密売を行っていることを示している。
 暴力団が存続するには,構成員の確保と資金の獲得が必要である。資金源としては,一応合法企業と言い得るものもあるが,主要なものは,覚せい剤,売春,賭博などの非合法活動によるものである。特に,覚せい剤は少量でばく大な利益を得ることができるため,組織ぐるみで覚せい剤を密輸入し,かつ,その密売を行っている暴力団が少なくなく,その活動も国際化してきているので,覚せい剤に対する徹底的な取締りは,暴力団の重要な資金源を絶つことともなろう。