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 昭和57年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/2 

2 収賄事犯

 I-32表は,昭和47年から51年までの5年間(以下本節において「前期」という。)と52年から56年までの5年間(以下本節において「後期」という。)にそれぞれ収賄罪で検挙された公務員(いわゆる「みなす公務員」を含む。)の職種等につき,上位10位までを掲げて,その変遷を比較してみたものである。収賄事件の全検挙人員について見ると,後期は1,084人で前期に比べて626人(36.6%)減少している。職種別では,前期,後期とも,土木・建築関係の地方公務員が第1位,地方公共団体の各種議員が第2位を占め,この両者で占める比率は,前期で48.9%,後期で46.0%と約半数近くになっている。全検挙人員のうち,地方公務員は,前期で80.2%,後期で78.3%を占めており,地方公務員による収賄事犯の占める比率が極めて大きい。国家公務員について見ると,前期は農林水産省関係が36人で第6位,建設省関係が29人で第8位,運輸省及び労働省関係が各28人で第9位であったが,後期では,建設省関係が25人で第6位,郵政省関係が23人で第7位,農林水産省関係が21人で第8位となっている。前期には10位以下であった郵政省関係が,後期では7位に上昇していることが注目される。

I-32表 収賄公務員の所属別検挙人員(昭和47年〜51年,52年〜56年)

 最近における収賄事犯の特徴は,依然として,各種土木・建設工事等の施行をめぐる事犯が多いこと,犯行手段が悪質化,巧妙化していることなどである。更に,賄賂額が多額化していることも特徴の一つとして挙げられるが,昭和56年においても,1,000万円を超える賄賂を収受したとして起訴された市長などがいる。
 ところで,収賄罪は,公務員犯罪の中でも最も世人の注目を引く犯罪の一つで,この犯罪が公務員の職務の公正を害することはもとより,政治,行政に対する国民の不信感を醸成し,ひいては,国民の遵法精神の低下を招くなど,社会一般に対して極めて大きな弊害をもたらすものであるにもかかわらず,この種事犯は,収賄者,贈賄者の双方が罰せられ,特定の被害者が存在しないから,極めて潜在性が強く,その取締りが困難なこともあり,相当数の暗数があり得ると考えられる。この種事犯の発生を防止するためにも,検挙の徹底を期すとともに,厳正な刑罰を科する必要があると言えよう。

I-33表 収賄事件通常第一審科刑状況(昭和51年〜55年)

 I-33表は,昭和51年以降の5年間について収賄事件の通常第一審における科刑状況を刑期別に示したものである。55年において,懲役刑に処せられた者は前年より45人減少して134人で,懲役1年以上の刑に処せられた者の比率は54.5%である。55年における実刑人員は8人(6.0%)であるが,その刑期を見ると,懲役3年の者が1人,2年以上3年未満が4人,1年以上2年未満が3人となっている。執行猶予率は例年極めて高く,56年も94.0%の高率であり,この種事犯の防止という点からは問題があるように思われる。