2 少年司法制度 イギリスの少年司法制度は,児童少年法(1933年,1963年,1969年),刑事裁判法(1948年,1961年,1967年)等によって定められている。10歳未満は刑事未成年者であり,10歳以上14歳未満の児童は行為の違法性を弁別できる限り刑事責任ありとされ,14歳以上17歳未満を少年とし,17歳以上を成人とする。少年(児童を含む。以下同じ。)による犯罪は少年裁判所(juvenile court)の管轄とされ,17歳以上の成人による犯罪は「治安判事裁判所」(Magistrates′Court)又は「刑事裁判所」(Crown Court)という通常の刑事裁判所の管轄である。ただし,殺人罪その他の重大犯罪を犯した少年及び成人と共犯関係にある少年の事件は通常裁判所の管轄である。また,17歳以上21歳未満の青年に対しても,刑事裁判所において,少年処遇としてのボースタル訓練(Borstal training,一種の少年院収容)命令の言渡しができる。 少年裁判所は,治安判事裁判所の中の特別裁判所であり,少年事件の裁判に適した資質・経験をもつ少年裁判所構成員(juvenile court panel)の中から任命される3人の治安判事(justice)によって構成される。(3人のうち,1人は女性,1人は男性でなければならない。) 少年の刑事訴追においては,成人の場合と同様,警察官が検察官としての役割を行い,事実審理において有罪が認定されると,少年に対する判決によって各種の処分が言い渡される。(警察官が刑事訴追に当たるという原則に対しては,困難な法律問題を含む事件等の訴追を担当する「公訴局長」(Director of Pub11c Prosecution)の制度があるが,処理する事件は極めて少なく,毎年,約40万件の全刑事事件のうち1,000件位である。) 少年裁判所の手続きには,この刑事手続と並んで,少年に対する「保護手続」(care proceeding)という民事的な少年福祉手続があり,犯罪少年,虞犯少年及び放任少年に対して,少年保護の理念に基づいて多様な処遇が行われる。なお,1969年児童少年法には,保護手続の刑事手続に対する優先性の原則など,保護主義の理念が強く現われているが,これに関する同法の重要な規定(殺人以外の犯罪を犯した児童に対する刑事手続の禁止に関する第4条,犯罪を犯した少年に対する刑事手続の制限に関する第5条第1項ないし第7項,ポースタル訓練の言渡しができる最低年齢を15歳から17歳へ引き上げた第7条第1項など)は,同法が施行された1971年以後,段階的に施行されることになっている。 また,警察は,刑事訴追をなし得る犯罪について,被疑者が自白した場合,訴追を行わないで,「警告」(caution)という警察限りの処分をする権限を有しているが,検挙人員のうち,この警告処分を受けた者の比率は,1979年において,10歳以上17歳未満の少年について48.5%,17歳以上21歳未満の青年について2.8%,21歳以上の成人について3.7%であり,少年に対してこの処分が広く行われている。 少年裁判所において有罪になった少年に対しては,絶対的免責(absolute discharge),条件付き免責(conditional discharge),罰金,監督命令(supervision order,地方当局又は保護観察官の監督に付するプロベーション的な社会内処遇),保護命令(care order,地方当局のコミュニティ・ホーム(community home)などの施設に収容する保護的な施設内処遇),出頭所(attendance center)への出頭命令(原則として,1回3時間以内,計12時間以内で生活指導等を行う。),短期収容所(detention center)への収容命令(原則として3月の短期拘禁によって,ショート,シャープ及びショックのいわゆる3S主義に基づく処遇を行う。),ボースタル訓練命令(収容期間は原則として6月ないし2年。一種の少年院であるが,実質的には青少年刑務所と言われている。)など多様な処分がなされ,また,有罪認定なしに,一定の要件のもとで精神病院への入院命令もできる。ただし,ボースタル訓練は,刑事裁判所においてのみ科せられるので,少年裁判所がこの処分を科するのを相当とするときは,この処分言渡しのために事件を移送する。 少年に対しては拘禁刑を科すことはできないが,一定の重大犯罪を犯した少年に対しては,刑事裁判所は,「他に適当な処遇方法がないと思料するとき」は,期間を定めた拘禁の処分を言い渡すことができる(1973年刑事裁判所権限法第19条第1項,1933年児童少年法第53条)。 以上のとおり,イギリスの少年司法は,保護手続と刑事手続の二面性,保護主義の理念,警察先議(警察による訴追と警告処分),刑事手続における対審構造,少年処遇の多様性等が特色と言えるであろう。
|