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 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節 

第3章 各国の少年非行の実情

第1節 序  説

 我が国の少年非行は,第1章で述べたように,最近,著しい増加傾向を示しているが,少年非行の増加は単に我が国だけの現象ではなく,世界的な動向であり,特に,欧米先進諸国の「豊かな社会における犯罪の激増」という現象の核心的な問題をなしている。また,少年非行への対応の中心をなす少年司法制度に対し,近年,特に,アメリカにおいて新しい動向が見られる。
 そこで,本章では,アメリカ,イギリス,ドイツ連邦共和国及びフランスにおける少年非行の動向及び少年司法運用の実情を,最近の公的統計資料に基づいて概観するとともに,必要な範囲で各国の少年司法制度の特色を紹介することにした。
 各国の犯罪・司法統計は,法律上の犯罪構成要件及び統計上の分類(重罪・軽罪,要正式起訴犯罪,指標犯罪など)の差異,少年年齢の法律上の差異(欧米では少年司法上の少年は18歳未満又は17歳未満がほとんどであるのに対し,我が国では20歳未満である。)及び統計上の年齢区分の差異などのため,少年非行の動向を統一的な基準によって比較することは極めて困難である。しかし,検挙人員を見るについて,年齢層をほぼ一定の基準で整理し,また,犯罪構成要件がほぼ共通する殺人,強盗等の主要罪種を取り上げるという方法によって,各国の少年非行の動向をほぼ同じ視野から概括的には握することは必ずしも不可能ではない。そこで,本章では,欧米諸国の少年司法制度及び統計上の区分に準拠して,18歳未満(アメリカ,ドイツ連邦共和国及びフランス)又は17歳未満(イギリス)を「少年」とし,刑法犯(ただし,指標犯罪,要正式起訴犯罪など主要な類型のみ)並びに殺人,強盗,傷害,窃盗,強姦及び放火の主要6罪種の各少年検挙人員の推移によって,少年非行の動向を概観することにした。それと同時に,18歳(又は17歳)以上21歳未満の年齢層は,犯罪の動向において大きな比重を占めているだけでなく,少年と成人の間の中間層として,欧米諸国の少年司法上,少年に準じた地位を占めているので,この年齢層を「青年」とし,その動向を「少年」に準じて併せ概観することにした。この「少年」の範囲は,我が国における中間少年,年少少年及び触法少年にほぼ相当し,「青年」は年長少年にほぼ相当する。
 このような方法によって,各国の少年非行の動向を概括的には握することは可能であるが,これに対し,少年司法運用の実情は,各国の少年司法制度の複雑・多様性のため,統一的なは握はほとんど不可能である。しかし,各国の少年司法制度の特色を前提として,犯罪を犯した少年及び青年が各国でどのような処遇を受けているかを知ることは,我が国の非行少年の処遇を考える上で有益と思われる。
 なお,少年非行の動向を示す二つの重要な指標は,少年比(検挙人員に占める少年の比率)と人口比(一般に,各年齢層の人口10万人当たりの検挙人員の比率をいうが,本章では,刑法犯総数のみについては,数値の簡明な表示のため,人口1,000人当たりの比率を使用する。)であるから,本章の分析もこの両指標を中心とする。