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 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第2章/第3節/3 

3 処遇の概要

 少年院における処遇は,在院者の心身の発達程度を考慮して,明るい環境のもとに,紀律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,正常な経験を豊富に体得させ,その社会不適応の原因を除去するとともに長所を助成し,心身ともに健全な少年の育成を期して行われる。また,在院者の処遇に当たっては,慈愛を旨とし,併せて,医学,心理学,教育学等に基づく知識の活用に努め,施設内処遇から施設外処遇への円滑な移行を図り,早期に社会復帰を可能にすることが期待されている。特に,近年では,分類処遇制度が整備された結果,各少年院が分担する対象者の特質が類型化され,資質面の特性や教育処遇上の必要性に応じた処遇類型を設定することが可能となり,それにふさわしい教育内容や指導方法で構成された教育課程(在院者の特性及び教育上の必要性に応じた教育内容を総合的に組織した標準的な教育計画)を編成し,効果的な教育を行う努力が続けられている。その概要は,次のとおりである。
(1) 1週の標準課業指導時数及び各指導領域ごとの指導時数
 少年院の教育課程は,生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育及び特別活動の各指導領域によって編成されている。教育課程は,課業として指導することとされており,1週の標準課業指導時数は,昼間をおおむね33単位時間(1単位時間は50分),夜間をおおむね11単位時間,週当たり44単位時間を下回らない範囲で,施設や地域の実態に応じて,少年院の長が定めることとされている。IV-20図は,処遇課程等別に,1週の標準課業指導時数(平均)及び各指導領域ごとに配分された週当たりの標準課業指導時数(平均)を構成比によって見たものである。1週の標準課業指導時数(平均)は,交通短期で52.9時間,職業訓練課程で46.0時間となっており,処遇課程等別によって若干の差異が認められるが,これは,主に,夜間における指導時数の長短によるものである。各指導領域ごとに配分されている週当たりの標準課業指導時数(平均)の構成比を見ると,生活指導の指導時数の比率が総体的に高く,生活指導に多くの時間が配分されていることが分かる。特に,交通短期処遇では,56.5%の指導時数が生活指導に配分されている。なお,職業訓練課程では,職業補導に65.2%,教科教育課程では,教科教育に40.3%と,多くの指導時数が配分されており,医療措置課程では,保健・体育に19.9%と他の課程と比べてほぼ10%程度多い指導時数が配分されている。

IV-20図 処遇課程等別・指導領域別週間標準時間(平均)の構成比(昭和56年4月1日現在)

(2) 生活指導
 生活指導は,在院者の心身の発達程度・資質等の特性を踏まえ,非行に直接関係のある生活態度や反社会的・非社会的なものの考え方を是正し,社会生活への適応を図ろうとするものであって,矯正教育の根幹をなすものである。その方法や内容は画一的なものでなく,教育実践を通じて多様に展開されている。また,在院者の出院時期は,この指導領域における改善の程度に左右されるところが大きく,それだけに,科学的な妥当性が必要とされ,更に,指導する職員の人格とかかわる側面が多く,在院者の自主的な改善向上の意欲を喚起することも要求されている。IV-52表は,生活指導の教育内容とされている非行にかかわる態度及び行動面の問題性等に対応する特別講座の実施状況を見たものである。昭和55年には,薬物(有機溶剤及び覚せい剤)濫用防止教育の特別講座を設けている施設が最も多く(41庁),一般短期処遇及び交通短期処遇を行う全施設が,薬物濫用防止教育及び交通・暴走族問題に関する特別講座を設けている。女子の施設では,性・異性問題に関する特別講座を設けている施設が多く,生活指導課程を持つ施設では,不良交友・暴力団問題に関する特別講座を設けている施設が多い。また,情緒未成熟,職場不適応,体力増強など資質上の問題性に対する指導,親子・家族問題など保護環境上の問題性に対する指導,生活マナーなど基本的生活態度に関する指導及び情操面の指導なども実施されており,これらは,集団活動,面接,相談助言,講話,心理療法等の方法によって行われている。このように,最近の運用の実際は,生活指導を一つの指導領域として構築し,そのあり方に治療的指導を加え,個々の在院者の持つ非行に直接かかわる問題の改善を目指して行われている。

IV-52表 非行にかかわる態度及び行動面の問題性等に対応する特別講座の実施状況(昭和54年,55年)

(3) 教科教育
 在院者のほぼ1割は,中学校課程を履修すべき学齢生徒である。これらの者に対しては,中学校の課程を履修させるため,中学校の学習指導要領に準拠した教育課程を編成している教科教育課程に編入し,学校教育法に基づく中等普通教育を施している。また,出院時に学齢生徒である者には円滑な復学を,在院中に中学校の全課程を修了した者には,中学校卒業証書を取得させるよう配慮している。高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に編入学させて高校教育を履修させるほか,高校進学及び復学希望者に対して補習教育を実施している。更に,大学等への進学を希望し,その必要がある者に対しては,それに応じた教育内容を中心に指導するほか,文部省の行う大学入学資格検定試験を受験する機会を与えている。IV-53表は,昭和55年度の,教科関係資格取得状況及び出院時の進学状況を見たものである。55年度の新収容者中,入院時に中学在学中の者は478人であったが,このうち,101人は,学齢中に出院して中学校に復学し,377人は,在院中に中学校の全課程を修了して出身中学校長名の中学卒業証書を取得している。また,在院中に中学校を卒業した者のうち,16人は高等学校,5人は専修学校に進学している。なお,学校教育以外の教育を必要とする者に対しては,社会通信教育を受講させており,55年度における受講者の数は,前年度からの継続者を含めて,公費生550人,私費生239人である。

IV-53表 在院者の教科関係資格取得状況(昭和55年度)

(4) 職業補導
 少年院に収容された者の多くは,出院後の職業生活に関する必要な知識や勤労意欲に欠け,かつ,出院後直ちに職業生活に入る必要のある者が多いことから,これらの者に対しては,勤労意欲の向上を図り,職業の選択及び職業生活への適応を容易にさせるために行う職業情報の提供,生産実習,技能実習等在院者の特性に応じた職業実習(作業療法を含む。)並びに職業生活に関する相談助言その他の指導を内容とする職業指導及び職業訓練法等関係法令に基づいて行う職業に必要な知識及び技能・技術を習得させる指導を内容とする職業訓練を実施している。そのほか,職業指導若しくは職業訓練の応用実習として又は社会生活への円滑な移行を図る手段として,院外の事業所や学識経験者に委嘱して,一般社会の職場で実習を受けさせる院外委嘱職業補導の制度もあり,昭和55年中に394人(住込み46人,通勤348人)がこの院外委嘱職業補導を受けている。なお,55年度中に,職業補導関係の資格・免許を取得した人員は,IV-54表のとおりである。

IV-54表 資格・免許取得人員(昭和55年度)

(5) 保健・体育及び特別活動
 保健・体育の内容は,保健衛生及び体育とされている。特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により行われるもので,主として集団的に行われる教育活動で,その内容は,自主的活動,院外教育活動,クラブ活動,レクリエーション,行事等とされている。ちなみに,昭和55年において,院外教育活動に参加するために外出した人員は,延べ2万6,402人,外泊した人員は,延べ1,975人である。